井関:高校卒業後の18歳で軍に入隊するのが一般的なところ、ハレルさんは、「Atuda(アトゥーダ・プログラム)」と呼ばれる、大学などの高等教育機関を経て入隊する、通常の入隊ルートとは異なる道を歩んできたそうですね。技術者や科学者、医師、看護師などの特殊技術や専門資格をもつ人材を軍に組み入れる必要性から生まれたプログラムと聞いていますが。
ハレル:ええ、私は18歳で軍にではなく、大学へ進学しました。イスラエル工科大学(通称:テクノオン)で電子工学を専攻してから、IDFに加わっています。ちなみに、アトゥーダ・プログラムに参加した場合、兵役期間は通常の3年間ではなく、倍の6年間務めることになります。それがアトゥーダに参加する条件です。
学生は大学へ進学することで兵役の時期が遅れますが、その代わり、軍は技術者としての教育を受けたより専門性の高い人材を獲得できます。最終的に、私は17年近くIDFに所属していました。軍務の終盤では、IDF内に「サイバーIDF」なるサイバー部門を本部内に立ち上げています。
井関:17年間に及ぶ兵役の過程で、イスラエル大統領が国防に貢献した人に贈る「Israel Defense Prize(イスラエル防衛賞)」を受賞していますね。そして除隊後、テルアビブ大学で博士号を取得し、イスラエル国防省研究開発局(MAFAT)のサイバー部門の責任者に就任しています。
ハレル:サイバーの重要性が認識され始めたとき、当初はすべてが機密扱いされていました。そして問題は、必ずしもIDFの参謀総長や高官、他部隊の指揮官がこの領域の専門家ではない、ということです。なので、あらゆるサイバー関連のプロジェクトが、否応なしに「機密」としてIDF内で開発されることになっていました。
ところが、一口に「サイバー」と言っても、実際には色々な領域があるのです。当然、「トップシークレット(極秘)」もありますが、そうでないものもあります。そこで私は、機密扱いが不要なものに関してはむしろ民間を巻き込み、イスラエル国防省やIDFが抱えている課題解決に一役買ってもらってはどうか、と提言したのです。
「米戦闘機F-16ファイティング・ファルコンを開発・製造したのは、航空宇宙開発企業のジェネラル・ダイナミクス社(編集部註:現在はロッキード・マーティンが製造)であって米軍ではない。基本的に、IDFでも技術や製品を購入し、それを改良し、必要な状況下に合わせて適用している。サイバーも同じであるべきだ」というふうに。
つまり、サイバー業界と協業することで人材や技術、そこから得られる知見と知識を共に育てていこう、というものです。そして企業にプロジェクトとして発注したり、製品を買ったりすることでサイバー業界を育成し、特殊任務や機密扱いのプロジェクトに関してはIDFやMAFAT内で取り扱えばいい、と。そこで、私は研究・開発部門内でサイバー支局を立ち上げました。3年後には部内で最大の組織になり、サイバー業界における政府向けのプロジェクトを80以上も動かしていました。