異色のジャズ・ピアニストが語る「誰もが創造性を解放できる」

ジャズ・ピアニスト ヤロン・ヘルマン

AIが社会に実装され、人間にしかない「創造性(クリエイティビティ)」がかつてないほど重要になっている。「人への投資」の最上流は「人の能力を伸ばすものへの投資」(リンクトイン共同創業者リード・ホフマン)だ。

私たちはいかにして個人として、社会として「創造性」を高めることができるのか。Forbes JAPAN9月号(7月25日発売号)の特集「創造性に投資せよ」の記事から抜粋掲載する。


ヤロン・ヘルマンは1981年イスラエル・テルアビブ出身。プロのバスケットボール選手を目指し、国の代表にも選ばれ将来を嘱望されるも、足のけがで断念。失意のうちに始めたピアノで才能を開花させる。

19歳で渡米、その後パリに拠点を移す。これまでに10作のアルバムをリリースし、2009年には「iTunes Jazz Album of the Year」を受賞。スイスのモントルー・ジャズ・アカデミーで芸術監督を務めたほか、現在はドイツのエルプフィルハーモニー・ハンブルクのジャズ・アカデミーの芸術監督としても運営・指導にあたっている。

輝かしい経歴のようにも見えるが、ピアニストとしては遅咲きの彼が成功できたのは、16歳のときに3年間学んだピアノの先生の「新しい教え方」にあったと彼は言う。今年春には自身の経験と創造性を磨くためのアドバイスを記した『創造力は眠っているだけだ』(プレジデント社)を上梓した彼に、話を聞いた。

僕はプロのバスケットボール選手を目指していた16歳のとき、試合中に太ももに大けがをし、医者から運動機能が完全に回復する見込みがないと宣言された。精神的に参り、途方に暮れていたなか出会ったのが、ピアノの恩師、オファー・ブレイエル先生だった。先生のおかげで、僕は幸運にも自身の創造力に目覚めることができた。オファー先生は、それまで誰も教えてくれなかった“創造力についての新しい考え方”を発見させてくれたんだ。

オファー先生から教わった、“眠っている創造力を呼び覚ます方法”をできるだけ多くの人に伝えることが重要だと思い、本を書いた。なぜなら、いまのような時代に創造力がこれまで以上に必要とされているからだ。

僕たちはいま、世界的に不安定な時代に直面している。いまある職業の多くは10年後、15年後には存在しない可能性が高い。この現状に適応するために、また自分自身を呼び覚ますために創造的である必要がある。

いまこそ、自分の創造力を伸ばすときだ。「時間ができたら」とか「定年退職したら」とかではなく、いま(のこの瞬間)なんだ。

僕たちをより幸せに、より生産的に、より創造的にしてくれる基本的な事象と、僕たちの内面的プロセスはどのようにつながっているのか。それを探るヒントはすべて僕たちの手元にあることを理解することがとても大切だと思う。必要なのは、自分自身の可能性にアクセスする方法を見つけることなんだ。
次ページ > 「学び方を学ぶ」

文=藤本庸子、岩坪文子 写真=マニュエル・ブラウン

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事