キャリア・教育

2022.08.01 17:00

異色のジャズ・ピアニストが語る「誰もが創造性を解放できる」

Forbes JAPAN編集部

オファー先生の教えで、プロになったいまでも活用していることはたくさんあるけど、ひとつあげるとすると「創造力を発揮するうえで重要なのは、目的地にたどり着くことではない。不断の学びや、飽くなき探求の旅路そのものに価値がある」ということだ。僕はステージに立つことが楽しくて、コンサートの最後に観客が拍手してくれるのはとてもうれしい。

しかし、僕がより愛しているのは、朝起きて、ピアノの前に行って探究している時間だ。何かが起こりうるようなわくわくする空間のなかに浸っているときが最高なんだ。さまざまな発想で遊び、音楽と自分自身とつながる場所である“創造力の研究所”を自宅の中にもって、日々その空間で探求する、このことで僕の人生のすべてが潤う。毎日、音楽を創造できる空間があるという実感が僕をより幸福にしてくれるんだ。

本では創造力の習慣についても書いているけど、創造力には才能よりも粘り強い努力が必要だ。僕の知る偉大な音楽家たちは極めて勤勉で、いつも自己改革を目指
している。僕のおすすめは、自分をロボットに見立ててプログラミングする方法だ。「ロボット」のように自分の体をピアノまで運び、いすに座らせ、楽譜を開き、練習を始める。僕は生来怠け者だったのだが、「ロボット・モード」を搭載して始めて、怠惰による注意散漫を避けられることができた。

また僕は、毎晩イメージトレーニングをしているんだけど、実は、イメージトレーニングよりも大事なことがある。それは、当たり前のことかもしれないけど、行動だ。

もし、あなたがスタートアップや会社で素晴らしいアイデアがあったとする。でも、何かを始めなければ何も起こらないんだ。

例えば、アイデアをメモするとか、(自分にとって)ふさわしい人に会いに行って質問したりするとか、行動をすることが大事だ。“現実を直視する”ことがいちばんの学習方法。

競争相手は他人ではなく自分なんだ。“ロボット・モード”(自動的)でやるべきことをこなして “笑ってしまうほど、ちょっとだけレベル” の目標を達成する。これが創造力を進化させる一歩となる。

僕が本を通して最も伝えたかったことは、「創造力は自分で育てることができる」ということだ。僕たちはまず、自分自身に創造力を発揮する許可を与えるべきだ。会計士や弁護士、エンジニアとして働いている人であっても、創造力に目覚める可能性はみんながもっている。自分のなかにある創造力を発揮すれば、人生を豊かにすることができる。日常生活の習慣に何かプラスしてみる。それだけで、いまの状況よりもよくなるだろう。

この記事は、Forbes JAPAN9月号(7月25日発売号)に掲載されています。


ヤロン・ヘルマン◎1981年イスラエル・テルアビブ出身。パリ在住のジャズピアニスト。これまでに10作のアルバムをリリースし、2009年には「iTunesJazz Album of the Year」を受賞。ドイツのエルプフィルハーモニー・ハンブルクのジャズ・アカデミーの芸術監督も務める。彼独自の芸術性と即興を体感できる楽曲として「Forever Unfolding」と「Rituel」がある。22年10月にはニューアルバム 『Alma』をリリース予定。

文=藤本庸子、岩坪文子 写真=マニュエル・ブラウン

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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