アジカンのフロントマン、後藤正文。幸福や資本主義について発信する理由とは

ロックバンド「ASIAN KUNG-FUGENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)」後藤正文

あらゆる職業を更新せよ!ー既成の概念をぶち破り、従来の職業意識を変えることが、未来の社会を創造する。「道を究めるプロフェッショナル」たちは自らの仕事観を、いつ、なぜ、どのように変えようとするのか。『転職の思考法』などのベストセラーで「働く人への応援ソング」を執筆し続けている作家、北野唯我がナビゲートする。


北野唯我(以下、北野):今日は後藤さんの個人スタジオにお邪魔しました。この場所は手づくりなんですか?

後藤正文(以下、後藤):自分でホームセンターで材料を買って、手づくりした部分もあります。どうしてこういう環境が必要かというと、違和感を感じるためなんです。

北野:えっ、どういうことですか?

後藤:自分の音楽で「どこがうまくいっていないか」を見つけて、修正するんです。オーディオマニアの家で音楽を聴くほうが楽しいはずですよ。その人の趣味や好みにチューニングされていますから。

僕はミュージシャンとして、音楽をいろんな角度から深めようと努力していますが、いまは「音響」にすごく興味が向かっているレコーディング寄りのミュージシャンだとも言えます。

北野:プロデュースやレーベルの主宰もされていますが、自らの職業をどう名乗っていますか。

後藤:ミュージシャンでありポエット、詩人だと思っています。東日本大震災以降、自分では歌詞を書くことも誇りをもってやっているので。

北野:ネット上で文章の表現を続けていますね。

後藤:書いたり読んだりすることがすごく好きなんです。「note」で書いている日記は毎日5行と決めていますが、そういう縛りがあると訓練になる。書かないと文章はうまくならないし、書くと頭の中が整理されるんですね。人に読まれるところで書くと緊張感があるし、そこで自分の考えがアップデートされることもある。でも、あまり考え込まず自然体で書くようにしています。

成功の物差しはひとつではない


北野:ミュージシャンとしての進化は、自分でどういうときに感じますか?

後藤:進化というより「音楽をやっていてよかったな」と感じるのは、自分がつくった曲で本当に感動したときです。いい構想が浮かんだとき、つくった曲をいい音で再生できたときなどは鳥肌が立ちます。かけ値なく、本当に最高の瞬間です。


ASIAN KUNG-FU GENERATIONの10枚目となるニュー・アルバム『プラネットフォークス』が2022年3月30日に発売。劇場版『僕のヒーローアカデミア THEMOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の主題歌「エンパシー」をはじめ、全14曲が収録されている。初回生産限定盤の特典Blu-rayには、21年11月にBillboardLive TOKYOで開催されたライブの模様を全曲収録した。

北野:僕はアジカンの昔の曲も大好きなんですが、後藤さんは数年前の作品を客観的に物足りないと思うことはあるんでしょうか。

後藤:確かに「ここはこうできたな」という感覚はあるから、音楽への理解が深まっていると感じることはあります。そういう意味で自分は進んだなと思うんですが、本当に進化なのかは考えなきゃいけないと思う。昔はこんなデタラメができたなとか、そういう美しさもあるので。老いることで学ぶことはありますが「頑張らなくてもずっと70点ぐらい出せる」という具合に失敗しなくなってしまう。昔は0点のときもあれば100点を取れることもできたから、うらやましいかもしれない。
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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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