しかし、経済、社会、文化の面で、世の中の趨勢が流動的になっている今、消費者が求めているものを把握するのは、以前よりもずっと難しい。こうした状況を踏まえつつ、アクセンチュアは、消費者心理を測定する調査を定期的に実施している。その最新の調査報告は、いま世界に広がりつつある不確実な状況に、消費者がどう対応しているかを浮き彫りにしている。
現状では、3つの顕著なトレンドが存在する。
1つ目は、我々が「不安対象の転換」と呼んでいる現象だ。これは、消費者心理において、「経済的な不安」が「健康上の懸念」を上回り始めている事態を反映している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けて、当然ながら、近年は心身の健康が購買行動の大きなけん引役となってきた。この状況は今も変わっていない。だが今回の調査では、不安要因として家計の問題(51%)を挙げる人の割合が、健康(46%)を挙げた人を上回った。さらに、経済的な懸念の中でも、インフレと生活費の問題が一番気がかりだと答えた人の割合は8割に達した。
小売業者にとってこの調査結果は、顧客との関係を育み強化する上で、今が非常に重要なタイミングであることを意味する。自由に使える支出が抑制されるなかで、消費者は、高額な買い物をするためには何らかの後押しを必要としている。そして、価格が安定し、安心できることを望んでいる。
2つ目のトレンドは、「支出のシャッフル」だ。こちらは、消費者(特に低所得層)のあいだで、現在の経済状況によって家計が圧迫されているという感覚が高まっており、その結果、支出に関してトレードオフを余儀なくされているという現象だ。
調査結果によると、このトレードオフで最も影響を受けるとみられるのは、高級品や高額商品の購入、外食、行楽目的の旅行だ。一方、食料品、光熱費などの公共料金、家庭用品といった生活必需品への支出は、今後も堅調を維持しそうだ。
しかし、この調査結果には興味深い変化が認められる。例えば、今後、医療や健康関連の支出を減らさず、むしろ増やす見込みだと答えた消費者の割合は4分の1以上(27%)いる。低所得層でも、21%がそう回答している。消費者が何を必需品と考えるか、という意識に大きな転換が起きたことがうかがえる数字だ。