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2022.07.26 08:00

民間人でも政策はつくれる。全国で生まれる政策起業家

発売中の『Forbes JAPAN』2022年9月号の特集「インパクト100」では、世界的な新潮流とも言える「インパクト」という概念にフォーカスした。社会課題の解決と、事業成長・財務リターンを両立し、ポジティブな影響を社会に与えることを意図し、利益追求と公益利益の達成という二兎を追うことを目指す概念だ。

資本主義のアップデート、再構築の中心的役割を担い、これからの経済、社会の「新しい主役」となり「ポジティブな未来」をつくる、大企業、スタートアップ、投資家、資本市場など、世界で躍動し拡張している「インパクト・エコシステム」の全容を見ていく。

特集では、政策に影響を与えることで、社会によりよいインパクトを与えている、民間の「政策起業家」の新たな動きに注目した。


「政府の『経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)』に、私たちが政策提言してきた文言が4つ入った。チームで政策起業できているから生まれた成果だ」そう話すのは、病児保育などを手がける認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹だ。駒崎は、日本を代表する政策起業家として知られている人物だ。

政策起業家とは、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブによると、「公のための問題意識のもと、専門知・現場知・新しい視点をもって課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響を与える」民間のリーダーだ。

小規模認可保育所、医療的ケア児支援をはじめ数々の政策起業をしてきた駒崎は2019年10月から、フローレンス内に「フローレンス政策シンクタンク」を創設。子ども・子育て領域における政策提言力の向上を目指し、政策アドバイザーの千正康裕と国家公務員兼業者、フローレンススタッフの混成チームとして発足させた。

現在は、組織内のさまざまなチームから人が集い、20人近い「政策起業チーム」となっている。

今回、①親の就労の有無にかかわらず保育園が利用できる「みんなの保育園」、②食品の宅配をきっかけに経済的に厳しい子育て家庭の孤立を防ぐ「こども宅食」、③子育て世帯にオンラインで継続的に声をかけ相談を受けるなかで必要な情報提供・支援につなぐ「デジタル相談支援(ソーシャルワーク)」、④保育や教育の場に性犯罪歴のある大人を立ち入らせない「日本版DBS」の4つが入った。駒崎はその意義を次のように話す。

「ソーシャルセクターにとって、骨太の方針にアジェンダをいれること自体かなりハードだ。企業でいう『IPO(新規株式公開)』に近い。チーム化して4つ実現できたことは今後に向けた転換点になる」


「フローレンス政策シンクタンク」とチームで政策企業を行う認定NPO法人フローレンス。代表理事の駒崎弘樹(右)と市倉加寿代(左)。駒崎による市倉の評価は「情熱が半端ない。他者の痛みを自分の痛みとして感じられるのは一種の才能」

この「フローレンス政策シンクタンク」から生まれた政策起業家のひとりが、多胎児(双子、三つ子など)家庭支援の制度創設に結びつけた市倉加寿代だ。市倉は友人からのLINEでの悩み相談をきっかけに、2019年秋、「多胎育児をサポートする会」を設立し、フローレンスとともに、全国約1600世帯にアンケートを実施した。アンケートに寄せられた当事者の声を、国会議員や都議会議員、東京都交通局や国土交通省をはじめ、国や行政に届けながら、政策提言を行った。

「双子ベビーカーをたたまずに都営バスに乗れないということなど友人から聞くまでは知りませんでした。アンケート結果でも、多胎児育児中に辛いと思う場面について、約9割の方が『外出・移動が困難である』という回答でした」(市倉)

その結果、2021年6月より、都バス全線で双子ベビーカーの乗車が解禁された。それ以外にも、東京都内での多胎児家庭向けのタクシー利用料助成、ヘルパー事業の拡充などの政策提言を進め、実現させた。そして、フローレンスは22年4月から、多胎児家庭専門の訪問サポートサービスを正式に開始させた。

「『駒崎さんだからできたんでしょ』とよく言われたが、そうではない。『なんとかしたい』という情熱があれば、政策起業家には誰でもなれる」(駒崎)。フローレンスと駒崎は22年5月より、「駒崎弘樹の政策起業道場」を開講し、政策起業のスキルを社外に広げる活動もはじめている。
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文=フォーブスジャパン編集部 写真=小田駿一(P56)、飯塚麻美(P57)

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