規制改革にイノベーションを起こす
──リソースのひとつとして「デジタル臨時行政調査会」(デジタル臨調)が年明けから本格始動し、小林さんはその事務局長を務めています。4万件以上の規制からデジタル活用を阻害するものを洗い出して、3年間で点検・見直しを完了する方針を発表しています。かなり思い切った規模感とスピード感の規制改革です。
小林:4万件の内訳は、法令が約1万件、通知・通達・ガイドラインなどが約3万件あります。これらを一つずつ見直しを検討していくわけにもいきません。政府が目指すデジタル社会の指針として「構造改革のためのデジタル原則」をつくりました。
それに照らして、合わないもの、例えば「対面」や「目視」などのアナログな手段が求められる規制を「アナログ規制」として、臨調事務局でピックアップして各省庁に確認してもらいました。その結果、法令だけでも約5000条項、トータル約2万条項がアナログ規制だということがわかりました。
これらをどう見直すかというと、まず規制を目的や趣旨ごとに類型化し、そのうえでデジタル技術の適用フェーズを3段階に分けます。各省庁には、自分たちが所管するルールがどの類型・フェーズに当てはまるか整理をしてもらっています。そしてデジタル臨調は、各フェーズを次に進めるための「テクノロジーマップ」を整理して提示しています。
例えば、実地での目視が必要とされていたアナログ規制なら、ドローンを使えば遠隔での対応が可能になる、といったイメージですね。こうした情報も活用しながら、類型・フェーズが共通する規制を横断的に一括で法改正しようというのがデジタル臨調の取り組みです。
──一括で横断的に変えていくことが肝ということですね。
小林:点でやっていた規制改革を面でやっていくというのが、これまでとの大きな違いです。いわば規制改革自体のイノベーションなんです。とにかく早く進めないと日本が世界に後れを取るばかりだという問題意識がありましたから。
──こうしたアイデアは、どのように発生してきたのでしょうか。
小林:初当選以来10年間、漁業法改正や携帯キャリア事業への楽天の新規参入など、さまざまな規制改革に取り組んできました。しかし、とにかく時間がかかることが多く、どうやったら規制改革を早く実現できるかを考え続けてきました。
大きなターニングポイントであり成功体験になったのは、コロナ禍を契機に押印を廃止すべく、全省庁の法律を横断的に見直し、48本の法律を一括改正できたことです。このプロセスは非常に価値があるものでした。ビジネス用コミュニケーションツールの「Slack」を使って、労務や総務、人事の現場を知る民間の方々に具体的に押印や対面が必要とされているものをリスト化してもらいました。
民間と政治が一体になって取り組むことで、行政から見えていない課題も含めて総ざらいできると再認識しました。ルールが変わればビジネスチャンスは広がります。押印廃止の法改正によって、電子契約のマーケットが3倍に成長しました。
だからデジタル臨調の事務局には、全省庁の官僚や地方自治体職員、弁護士、テック領域の専門家、経済団体出身者が顔を揃えています。それぞれのネットワークで課題を吸い上げることで、政官民一体で自律的にルールを見直していく枠組みができていくと考えています。