──ルールメイキングでは、「お上」に辛抱強く要望することが必要というイメージがありました。
小林:自律的に社会をよくしていく取り組みがさまざまなところで起こり続けるのが理想的な社会像だと思っているんです。特に経済活動においては、前提になっている規制や慣習を当事者自らが参画しやすい仕組みがあれば、より自由な発想が生かせる社会になるはずです。デジタル臨調の取り組みでは、その点でビジネスサイドの皆さんにも成功体験をもってもらいたいという思いがあります。
──小林さんはデジタル臨調の活動を通じて「法律自体を民主化したい」というメッセージも発信しています。
小林:インフラってハードを想像しがちですけど、最も根幹のインフラは法律です。新しい時代に向けて法律をつくり直すのはもちろん、そのプロスセスにおいても、議員と役所だけで決めるのではなく、みんなで決めようぜ、ということです。テクノロジーを活用すればできます。
政府が国民や企業が活動しやすいインフラを整えていけば、多様性やQOLが上がり、イノベーションも起きやすくなります。自ずと国の競争力も上がります。
一方で、社会が成熟するなかで課題は複雑化しています。民間企業と同じように、国も生存戦略としてダイバーシティを獲得しなければならない時代です。法規制を見直すときに多様な視点を入れるための方法論として、法律のUI(ユーザー・インターフェイス)をアップデートし、もっと国民にとって身近でわかりやすいものにする必要があります。
企業や国民が法律を自分たちで読み解いて、自発的・自律的かつ継続的にルールを見直していくようなアプローチが可能になれば理想的です。これを担う「デジタル法制局」の整備も進めていきます。現在の改革だけでなく、将来のルールづくりにおいても、その時代の技術に適合させられる仕組みを構築したいということです。
──具体的な方策は。
小林:まずは法律の最新版を常に更新し、誰もがどこからでも無料で簡単にアクセスできる状態にすること。あわせてマシンリーダブルな形式でも公開します。そうすればリーガルテックのような民間事業者が利用者のニーズに合わせてサービス化してくれますから、その後は事業者の動きを後押ししていくことになります。
その一歩先の取り組みとしてこの国の法律をコードのように書き換えられるようにしたいと思っています。デジタルツインの世界で、どの法律のどの部分を変えると実社会にどんな影響が出るのかシミュレーションできるようになり、法制作業も簡単になっていく。国民の皆さんにもわかりやすく法改正の必要性や意義などを示すことができるようになります。