ビジネス

2022.08.03 18:30

世界ナンバーワンシェフの「人が辞めない」組織づくり

フィレンツェのグッチ オステリアのスタッフ。中央がマッシモ・ボットゥーラ氏、その両サイドが共同エグゼクティブシェフの紺藤氏とロペス氏 (C)Cinefood

フィレンツェのグッチ オステリアのスタッフ。中央がマッシモ・ボットゥーラ氏、その両サイドが共同エグゼクティブシェフの紺藤氏とロペス氏 (C)Cinefood

いま食の世界で「サステナブル」といえば、食材の話だけではない。フードロスをなくす「ノーズトゥーテール(頭から尻尾まで)」、つまり食材を無駄なく使い切るアプローチと同じように、いや、それ以上に大切だと考えられているのが、人が辞めない組織づくりだ。

続くコロナ禍で、大きな打撃を受けた飲食業。業界を離れる人も多い中、長く人が働き続ける場所もある。そんな稀有なレストランを率いるのが、「世界のベストレストラン50」で2016年と18年に世界一に輝いた「オステリア フランチェスカーナ」のオーナーシェフ、マッシモ・ボットゥーラ氏だ。

世界4都市の「グッチ オステリア」など、複数のレストランの監修も行う彼の考え方には、ウェルビーイングの種が隠れている。

「グッチ・オステリア」
「グッチ オステリア」の内観

17年にわたって氏と共に働き、オステリア フランチェスカーナのスーシェフを務めた紺藤敬彦氏は「マッシモはとにかく人情味があって、スタッフを仕事相手というより家族のように扱ってくれる」とその人柄を語る。

「彼は仕事のことだけではなくて、個人的な悩みがないかどうかも心配するし、何かあったらもちろん、親身になって相談に乗ってくれる。帰国などで、スタッフが店を辞めるときには、そのスタッフと抱き合って号泣するほど」だと言う。

世界No.1レストランだからこそ、料理もサービスも高い基準が求められるが、細かい注意はするものの、感情的に怒ることはあまりない。しかし、ボットゥーラ氏が激怒する唯一の例外がある。それは、忙しいサービスの合間だからと、新入りスタッフが立ってまかないを食べてしまった時だ。

「なんで座って食べないんだ!」とボットゥーラ氏の雷が落ちる。

オステリア フランチェスカーナでは、営業前に全員が座ってまかないを食べる。「マッシモは食を深く愛しているので、ただ『お腹をいっぱいにするだけのために食べる』ということが許せない。僕たちは、食を通した幸せな時間を提供するのが仕事。だからこそ、まず僕たち自身が食を愛していなければ。『自分の食事の時間をないがしろにする人間が、どうして人を幸せにできるんだ』とマッシモは考えているのだと思います」

人を幸せにするためには、まずは自分が「人として幸せであること」。まさにウェルビーイングそのものともいえる、等身大の「人間主義」の考えがボットゥーラ氏の根本にある。

さらに紺藤氏は「マッシモは、物事の良い面を見る人だ」と語る。実は、紺藤氏はボットゥーラ氏のシグネチャーデザートとなった「おっと! レモンタルトを落としちゃった」をある種「生み出した」張本人でもある。

「マッシモは、基本的に物事を、ネガティブに捉えない。起きたことは変わらないのだから、そこから視点を変えて『どうしたら良くなるか』を考える」のだという。
次ページ > 名物レモンタルトの誕生秘話

編集=仲山今日子

タグ:

連載

「ウェルビーイング」の実践

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事