何かを切り捨てるのではなく、両立の方法を探る。そんな考え方を支えるのが「お互い様」という思いやりだ。
「人間なのだから、体調が悪いことも、不得意なこともあったりする。それをお互いにカバーし合う。できないからと相手を否定するのではなく、できることをお互いにやっていく、それって、家族も同じですよね」と紺藤氏は言う。
イタリアのレストランは、三つ星店であっても家族経営の店が多く、家庭的な雰囲気の厨房も多い。それは、高度経済成長時代を通して日本人がある意味置き去りにしてきた「人間性」のようで、その経営から私たちが学ぶべきものがあるように思う。
ボットゥーラ氏は、いくつもの店のほか、賞味期限切れ間近の食材を使い、家を持たない人たちに無料で食事を振る舞う「レフェットリオ」という活動も行っている。サービスを手伝いたいと申し出た筆者に、エプロンをかけながら、彼はこう言った。
「レストランは、人を癒すための場所。大事なのは、食事を振る舞ってお腹を満たすことではない。大切にもてなして、『あなたは価値のある人だ』というメッセージを伝え、人間としての尊厳を取り戻すことが何よりも大切なのだ」