コロナ禍からの教訓
このような体験型コンテンツづくりに「全振りしていた」というワントゥーテンが、イベントが軒並み中止となったコロナ禍で大打撃をこうむるのは必定だった。
「本当につらかったです。オリンピック関連の案件も、インバウンド需要を見込んで準備していた企画もたくさんあったのに、それが全部消えてしまいましたから。コロナ禍で相対的に伸びたのはウェブ広告とアプリ製作、あとは通販でした。どれもうちがやっていなかった分野だったから、厳しかったですね。一時は190名近くいた社員はおよそ120名にまで減ってしまいました。
それが今年の3月頃からようやく空気が変わって、案件もたくさん来てるし、この2年間でリアルに依存しないコンテンツのほうでも打ち手を講じてきて、それが実を結びつつあります」
もちろん絶望の淵をのぞき込んできた澤邊のこと、転んでもただでは起きない。コロナ禍での気づきを活かして、いまは新たなフィールドを開拓しているところだと語る。
「今度のパンデミックで人類は『こんなことが起こりうるんだ』と学んだので、これからは予定通り進まないときの『プランB』を用意してゆくのが大事だと考えています。マーク・ザッカーバーグがメタバースを始めたのもおそらくそういう理由でしょう。逃げ場をどこかにつくっておかないと大変なことになる。それはもちろん今後のビジネスチャンスにつながってくるでしょう。
過去の経験や技術資産を活かし、いま力を入れているのは「デジタルツイン」。すべての都市や町に対して物理空間に対応するバーチャル空間が存在し、どんな境遇の人でもアバターを使って、どこへでも思い通りに、そして低コストで訪れることができる……そんな未来をつくりたいです。
例えば、個人都合や社会情勢でリアルな旅行ができないときには、バーチャル空間の『ツインシティ』に旅をして、リアル空間からアバターを見ている現地の人と話したりできれば、行った気分になれるじゃないですか。で、いざ行けるようになったらリアルでも行けばいい。その未来が見えたのがワントゥーテンの今回の進化ですね」
経営者の意識を持つようになって20年。澤邊芳明はどこにゴールを設定しているのだろうか。
「それはやっぱり、僕がいなくても全スタッフがビジョンを体現できるようになることですね。あとはワントゥーテンを誰もが知っている会社にしたいです。これまでは『隠れた名店』でしたけど、それはもういいかなって」
澤邊芳明(さわべ・よしあき)◎1973年東京都生まれ。関西の奈良市で育ち、国立大学法人京都工芸繊維大学卒業。1→10(ワントゥーテン)代表取締役社長CEO。18歳でバイク事故に遭い、手足をいっさい動かせないなか、独学でパソコン技術を習得。大学復学後の24歳で創業。総勢約120名からなる1→10は、現在、XRとAIに強みを持つクリエイティブカンパニーとして注目されている。一般社団法人日本ボッチャ協会代表理事、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーなどを務める。初の著書「ポジティブスイッチ 絶望からの思考革命」を8月1日に小学館から発売予定。
1→10(ワントゥーテン)◎ https://www.1-10.com/