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2022.07.08 12:00

18歳で頚椎を損傷。車椅子CEOが語る「デジタルツイン」の世界


リアルの場での体験づくり


東京オフィスの入口には、現在、カンヌライオンズをはじめとする名だたる広告賞のトロフィーがずらりと並んでいる。クリエイティブを志す者なら誰もがめざす栄冠だが、1つ1つの受賞の由来をたずねると、澤邊は「いやあ、もう忘れてます」と笑って受け流す。



「うちは2010年頃まではデジタル広告をメインにやっていたのですが、その間ずっとIT自体が発展を続けていました。VRとかプロジェクションマッピングとか新しい技術が実用化され、デジタル表現の領域が、パソコンのディスプレイから飛び出して、リアルの場にも広がっていったのです。

その流れを見ていると、そっちのほうが面白そうだと思えてくる。しかも2011年には東日本大震災があって、一時的に広告業界全体が(自粛のため)冷えこみました。そこで社員たちのモチベーションも訊いて考えた結果、リアルな空間にデジタル技術を活かした演出を施す、体験型のコンテンツづくりに路線変更しました。だからちょうど10年前のことです」

これまで開発してきたなかでも、澤邊が特に強い思い入れを持っているコンテンツが、東京オフィスに展示されている。車いすロードレースを疑似体験できる「サイバーウィル」の実機と、審判員なしでボッチャを手軽にプレイできる「サイバーボッチャ」だ。

「特にボッチャは、僕にとっては大事なパラスポーツです。大学の卒業要件には体育実技の単位もあったんですが、カリキュラムに用意されていたどのスポーツもこの身体ではできません。そんなときにボッチャと出合い、おかげで単位がとれたという思い出があります。

2016年にブラジルのリオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催されましたが、その時点でのボッチャの認知度は、日本ではたった2%でした。東京オリ・パラ組織委員会のアドバイザーをしていたこともあり、もっとパラスポーツを知ってもらいたいと思っていました。

それには体験してもらうのがいちばんなのです。ボッチャの場合は、難しい判定ができる審判員が必要なので、そのせいで体験のハードルが上がっているのではないかと思いました。だったら自動判定する装置をつくろう、そう考えて開発したのがこの『サイバーボッチャ』です」
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文=前川仁之 撮影=太田真三

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