キャリア・教育

2022.06.29 17:00

世界、日本で広がる新潮流!教養としての新しいフィランソロピー入門


寄付市場の拡大に必要なのは「仕組み」


2020年、日本の個人寄付総額は年間1兆2126億円で、ふるさと納税を除くと5401億円。米国の個人寄付33兆円と比べると、大きな差があるのが現状だ。日本の寄付市場の拡大に向けては、株式市場との比較がわかりやすい。株式市場は必要とされる機能、プレイヤーがいて市場が拡大した。例えば、個人投資家が安心して投資できる仕組みだ。国内金融機関のウエルスマネジメント業務やファイナンシャルプランナーからのアドバイスがあり、運用会社などのアセットマネジメントも豊富で、投資先の企業情報を提供する格付け機関やアナリストレポートも存在する。

一方、寄付市場では、必要な機能やプレイヤーの拡充が必要な段階だ。例えば、個人寄付者に対して、アドバイスを行う「フィランソロピック・アドバイザー」の資格が日本にはない。株式市場でいうアセットマネジメントのような機能を担う、コミュニティ財団、助成財団を結ぶ仕組みも不足している。そして、非営利団体を評価する格付け機関が少ないというのが現状だ。「日本には寄付文化がない」というが、「仕組み」をまずつくる必要がある。

私は、米国の寄付市場に変革をもたらした、ドナー・アドバイズド・ファンド(DAF)の日本版をつくりたいと、日本フィランソロピック財団を始めた。フィデリティのDAFが知られているが、金融機関が設立した公益財団に個人が寄付口座を開設し、口座から非営利団体へ寄付する仕組みだ。我々も多くの金融機関と連携し展開している。財団のような感覚で「個人の思いのあるお金」を使うことができる点が特徴だ。私は「マンション型財団」と呼んでいる。このDAFは米国で急成長し、個人寄付の12%強を占める。フィデリティDAFだけでも、年間約7500億円(2019年)の支援・助成をしている。超富裕層の財団、個人の草の根に加えて、新たな手法で富裕層の「思いのあるお金」を厚くすることで、より多くの社会的インパクトの創出につながるはずだ。

岸本和久◎公益財団法人日本フィランソロピック財団代表理事。1987年野村證券に入社。野村ホールディングスのIR室長などを歴任。20年4月に退社し、同財団を設立し、代表理事に就任。
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文=藤田淑子、小柴優

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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