「利他」がアイデンティになる時代
米国では2017年ころから、「パーパスエコノミー(存在意義経済)」という言葉が使われ始めている。その象徴のひとつにあげられるのは、働く目的について、成長のためではなく、社会意義のためと回答した人が3割程度いるというデータだ。「お金の使い方」も同様になっているのではないか。例えば、社会によい活動をしているブランドを選んで消費するという行為は、商品の価値に加え、その会社を応援する行為になる。将来に向けて続く関係性にお金を払うことや、長期的な未来に対して見返りがあるかわからないなかで、社会意義のためにお金を払っており、消費というより投資に近い感覚だろう。
そして、それは「『地球にいいものをつくろうとしている会社』を支援する自分」というアイデンティをもつことにつながる。こうした小さな消費行為においても、社会意義のためにお金を使うことが、自分自身のアイデンティティや、ライフパーパスを再確認していくプロセスの一環となっていると言えるのかもしれない。
こうした背景には、「地縁」「血縁」「社縁」が消失した、個人の時代だからこそ、自分自身のアイデンティを確立したいというニーズの高まり。そして、現在、インターネット上での「ドーパミン思考」─常に新しいことを考えたり欲したりしていることが常態化していることへの反動として、「地に足がついているという実感をもちたい」「安定感」を求める傾向があるのではないか。その実感をもちやすい「利他の精神で活動すること」で、他者との関係性のなかに、自分の輪郭や存在意義を確認するということにつながっていくのではないか。Z世代が社会意義的な、利他的な活動を
するのはその象徴ともいえる。これからは経済性と社会性の両立をはじめ、パーパス経営といった企業で起きた流れと同じことが、個人にも起きるのではないか。そのひとつの表れが、起業家たちの起こしているフィランソロピーの動きではないか。
佐宗邦威◎BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。多摩美術大学特別准教授/大学院大学至善館特任准教授。近著に『模倣と創造13歳からのクリエイティブの教科書』。
藤田淑子、小柴優子◎一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)事業本部長代理。同インパクトオフィサー。富裕層向けフィランソロピー事業、新しいフィランソロピーの調査・推進。リポート『新しいフィランソロピーを発展させるエコシステムに関する調査』。