キャリア・教育

2022.06.29 17:00

世界、日本で広がる新潮流!教養としての新しいフィランソロピー入門


「フィランソロピー3.0」への進化


人類社会とともに古くから存在するフィランソロピー、すなわち、「人類に対する愛」は、次のように進化してきた。

博愛精神に基づいた個人が、困難を抱える人々に手を差し伸べるために慈善団体へ募金を行う「フィランソロピー1.0」。ロックフェラーやフォードをはじめ、事業で大成功を収めた企業家がフィランソロピーに参画し、慈善中心のフィランソロピーをより戦略的で成果志向なものへと転換。プログラムオフィサーと呼ばれる専門スタッフを雇用し、戦略的に課題解決に取り組んだのが「フィランソロピー2.0」。そして現在、IT起業家の超富裕層が担い手となり、インパクト投資などの幅広い資金提供手段を用いたり、より専門性と戦略性を高め、スケールアップとイノベーションを通じた社会課題の解決を目指す「フィランソロピー3.0」へと進化している。

背景にあるのは、次の3つだ。ひとつは、世界的な金利低下により基本財産の運用収入を原資とした助成プログラムの維持が困難になり、助成以外の支援手法の開発に迫られたこと。もうひとつは、フィランソロピーに、社会起業家の需要に対応したインパクト投資という新しい手法が導入されたこと。最後は、IT起業家たちが、ビジネス視点をフィランソロピーにもち込んだことがあげられる。

私たちは、「フィランソロピー3.0」の実践者たちがフィランソロピーに求める特徴を「新しいフィランソロピー」として、次のように整理している。

ひとつは、「社会課題の構造的な解決を目指す」ことだ。顕在化している現象だけでなく、社会課題の原因をひもとき、それらの構造的な解決につながるかたちで支援を行っている。

ふたつめは、「寄付から投融資まで柔軟な資金提供を行う」ことだ。社会課題解決が非営利団体だけではなく、営利事業を行う社会的企業も担うようになり、資金の受け手の法人格や性質にあった資金提供が必要とされるため、寄付に加えて投資行動を通じて社会貢献を行うという手法も顕在化している。

最後は、「社会的インパクトを重視する」点だ。提供した資金がどのような社会的インパクトを創出したか、を理解したいと考えている。

今後は、こうした「フィランソロピー3.0」に加え、インパクト志向の強いZ世代など次世代の台頭や、富裕層のフィランソロピー・コミュニティの充実など現在注目している新しい動きが本格化するだろう。

いま、日本でも「フィランソロピー3.0」の萌芽が見えはじめている。起業家たちが事業的視点をもち、インパクトを求めつつ、「新しい社会をつくる」活動に取り組んでいる。

事業活動を行いつつ、社会貢献活動を並行して行うことは大きな意義がある。フィランソロピー活動を通じて社会全体のよりよいあり方を模索し、社会課題が生まれる要因に理解を深めながら、本業の事業を展開できるからだ。フィランソロピーを通して得られた知見が、収益事業で理想的なかたちでいかされるに違いない。また、社会貢献活動にも、事業的視点が加わり、よりサステナブル(持続可能)な運営が期待できる。この「両輪」こそが、人々にとってより幸せな社会がつくられる原動力になるに違いない。


「新しいフィランソロピー」資金の性質の領域
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文=藤田淑子、小柴優

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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