資産すべて「インパクト」へ
次に紹介するのは、RS Groupだ。1982年に設立された香港のファミリーオフィス(富裕層一族の資産管理組織。資本の運用・保全、円滑な継承、慈善活動を行う)。同組織の特徴は、「資産運用で、持続可能な社会をつくる」ことを志向している点だ。資産のすべてを、社会的・環境的インパクトの実現に取り組む企業への寄付や投資にあてる「100%インパクト」という考え方を実践している。アジアにおけるファミリーオフィスの代表的存在だ。
創設者・会長であるアニー・チェンは、大規模ファミリーオフィスでの長年の勤務経験があるが、自身の資産を管理するファミリーオフィスを設立する際にはじめて、自分の価値観と一致する資産管理方法を見いだしたいと考えた。そこで生み出したのが、「100%インパクト」だ。「私たちは見たい、つくりたい未来に投資しようとしている」とも公言している。
投資哲学は、「いかなる投資のアセットクラス(資産の種類)にとっても適切なかたちでインパクトを最大化しつつ、多様な経済的リターンの最適化を追求する」。そして、トータル・ポートフォリオ・マネジメントを、欧米のアドバイザーや金融機関のサポートを得ながら、アジアでいち早く取り入れている。
そのほかにも、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスの元妻である、マッケンジー・スコットも、巨額の財産分与の大半を寄付している。組織化していない個人寄付者だ。フィランソロピー・アドバイザー・チームを通じて支援先候補団体に厳格な寄付前調査を行い、支援を決めた団体には、使途に一切条件をつけないで提供している。「トラスト・ベースド・フィランソロピー」を体現するかたちで、巨額の富をクイックでスマートに配分。こうした方針は、特にコロナ禍で効果を発揮した。
最後に紹介するのは、資産規模5兆円、世界最大規模の財団であるビル&メリンダ・ゲイツ財団だ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツとその元妻メリンダにより、2000年に設立。「すべての人が健康で生産的な生活を送る機会を得られる世界を実現すること」がミッションである同財団の特徴は、「成果」を重視すること。担当者は成果創出における責任を任されている。
こうしたゲイツ財団の優れている点が集結したのが、コロナ禍で顕在化した一連の取り組みだ。グローバルな公衆衛生の課題に取り組んできた同財団は14年からmRNA(メッセンジャーRNA)技術を用いたマラリアとHIVワクチンの開発に取り組んでいた。この過去の研究・開発の蓄積が、コロナ禍での、ファイザー社とBioNTech社によるmRNA技術を使用した共同開発ワクチンの早期開発につながった。
さらに、同財団は、ワクチン開発に資金提供する官民組織「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」の創設メンバーでもあり、コロナ禍での資金提供を続けている。ビル・ゲイツによる22年の年頭書簡によると、新型コロナウイルス対策に67億ドル(約7737億円)を提供し、21年時点で最貧国の8億人強の子どもにワクチン接種を行った。金額規模もだが、同財団の「未来を見据えた先駆的な試み」が、パンデミックのようなグローバル危機に対して、迅速でインパクトのある効果を発揮できたのだろう。
こうした成功の背景には、ビル・ゲイツが、成功すれば非常に大きな効果を上げる事業を厳選し、インパクトを非常に重視した財団運営を行うなど、ビジネスの視点をフィランソロピーにもち込んでいる点があるだろう。