円安は、訪日外国人観光客を増加させる効果をもち、彼らが日本国内で使うお金は、日本の景気回復に貢献するはずだ。これまでコロナの水際対策で外国人観光客の入国が認められてこなかったが、6月10日からようやく海外観光客の入国が解禁されるので、この効果はこれから実感されるはずである。
日本経済を支える主要な輸出企業は、すでに海外生産が主流になっており、円安になっても国内生産、輸出数量、国内への投資は増えない、といわれる。しかし、海外子会社の利益や資産の円建て評価が上がるので、日本本社への配当増も可能となる。
消費者物価が値上がりしているといっても、4月のインフレ率は、総合で2.5%、生鮮食料品を除くコア指数で2.1%、生鮮食品およびエネルギーを除くコアコア指数で0.8%だ。生鮮食品やエネルギー価格の現在のような急上昇が今後も継続する可能性は低いとすると、金融引き締めに転じる(それは円安にブレーキをかける)理由はない。
政策的に重要なのは金融政策の転換ではなく、ここ30年も続いている実質賃金の低迷の原因究明と、実質賃金上昇のための強力な政策である。これについては回を改めて書きたい。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。