主因は、米国の金融引き締めにより、日米金利差が拡大していることと、世界的にエネルギー価格が上昇していることである。米国のインフレ率が8%を超えるなかで、連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)は金利引き上げを急いでいる。3月16日に25bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)の利上げ、5月4日に50bpの利上げと量的緩和の縮小を決定した。今後も米国のインフレ率が顕著に低下しなければ、金利上昇が続き、円安もさらに進行しそうだ。
急速な円安を経て、「悪い円安」論が盛んになってきた。これまでの円安では、輸出企業の国内生産・輸出量の増加につながるメリットが強調されていた。9年前、日銀の黒田東彦総裁による異次元緩和で円安が引き起こされて、デフレが終わり、その後のアベノミクスの成功につながったことは記憶に新しい。
では、なぜ今回の円安が「悪」になっているのだろうか。円安をストップするために日本も金利を上げるべきなのだろうか。「悪い円安」の主な理由は、輸入物価上昇が食品やガソリンの価格上昇を引き起こし消費者の生活を直撃する、日本の資産が安くなり外国人が土地建物を買いあさる、という点だ。さらに、これまでメリットとされていた、インバウンド観光客の爆買いや、輸出企業への好影響も小さい、と考えられるようになってきた。ひとつずつ検討しよう。
通貨安が輸入価格を上昇させて消費者物価上昇につながることはある。生鮮食品や、食用油など加工食品では、顕著な価格上昇が起きていて、消費者の不満も聞かれる。ガソリン価格も高止まりしている。
しかし、最近の生鮮食品の価格やエネルギー価格の上昇の主な要因は、ウクライナへのロシア侵略とロシアへの経済制裁の影響による世界的なエネルギー価格、穀物価格の上昇、コロナとロシアのダブルの影響で物流が滞ったことが大きい。消費者物価指数に対する純粋な円安の影響はそれほど大きくない。
日本の資産の価格が、ドルベースで見て安くなり、外国人(正確には「非居住者」)が日本の不動産の購入を増やしていることも、しばしばニュースになる。しかし、外国人が日本の不動産を取得して、日本人が海外の不動産を取得するのは、資産の分散化の観点から双方に望ましいことであり、(取得資産が安全保障上問題のある土地建物ではない限り)歓迎されるべきことである。(ニセコのように)外国企業によるリゾート開発で周辺土地の価値も上がるようならば、大歓迎すべきである。