多様化する「ガチ中華」 世界に広がる現代中華料理の姿

ザリガニ料理は「ガチ中華」で取り上げられやすい一品だ


広大な国土ゆえに地方によって気候や風土が異なることから、もともと各地に固有の郷土料理があったが、それぞれが現代化したことも「ガチ中華」の隆盛につながっている。それには、各地のローカル料理が外食チェーンに発展して、中国全土に展開されたことも大きい。なかでも四川料理がこれほど全国化したのは、21世紀になってからだ。

ガチ中華
1990年代までは大半の中国の人たちはこんな麻辣料理は食べていなかった

繰り返すが、これは20世紀の話ではない。日本人で「ガチ中華」の存在を知っていたのは、2000年代に入ってから中国や台湾に駐在や留学をしていた人や、出張ベースで何度も訪ねていた人に限られていた。

「ガチ中華」は、2010年代半ば頃から、新華僑と呼ばれる人たちによって、少しずつ日本に持ち込まれるようになった。

新華僑とは、1978年の改革開放以降、海外に渡った人たちのことである。当初はまだ20世紀で中国は豊かな国とはいえなかった。それゆえ彼らの多くは、語学学校や大学を卒業後、それぞれの国で料理店を開いて生計を立てようとした。

だが、当時は自分たちが滞在する現地の国の人たちの口に合う料理をつくらなければ商売にならなかった。母国の料理を食べてくれる顧客は少なかったからだ。その頃、彼らは自分の店を「中国家庭料理(家常菜)」と呼んでいた。料理をつくっていたのは、母国で調理師の経験などない一般の人たちが大半だったからだろう。

ところが、先ほど述べたとおり、21世紀に入ると中国は経済成長し、豊かな時代に生まれた若い世代が留学のため海外に渡り、各国で働くようになった。経済力を手にした彼らは、海外でも母国の味を求めるようになり、「中国家庭料理」のオーナーたちもそのニーズに応えようとしたというわけである。21世紀以降に来日した若い世代が飲食店経営を始めるようになったことも大きく作用している。

こうした現象は、実は日本に限らず、ワールドワイドで起きていることである。「ガチ中華」や「ディープチャイナ」は東京だけの話ではないのだ。

例えば、カナダのモントリオールのチャイナタウンの中華レストランでは、ここ数年中国で流行していた四川料理の烤魚(川魚の麻辣煮込み)が人気メニューとなっている。この傾向は世界の各都市にあるチャイナタウンで見られるし、東京も例に漏れない。

ガチ中華
カナダのチャイナタウンでも人気の四川料理の烤魚

日本で最近増えている中国の外食チェーンも、北米やオーストラリア、東南アジアなど世界各国で出店している。
次ページ > 中国の人たちが世界に進出した4つの時期

文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

ForbesBrandVoice

人気記事