ボブ・ディランの息子が案内役。60年代LAを訪ねる音楽ドキュメンタリー

エグゼクティブ・プロデューサーも務めたジェイコブ・ディラン / 『エコー・イン・ザ・キャニオン 』5月27日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 / (c) 2019 Echo In The Canyon LLC ALL RIGHTS RESERVED.


「主役」はボブ・ディランの息子


実は、この音楽史的にも重要なドキュメンタリーの「主役」は、ジェイコブ・ディランという人物だ。その名前からもわかるように、ノーベル文学賞も受賞した偉大なミュージシャン、ボブ・ディランの息子だ。1969年生まれの彼が、作品でもレジェンドたちのインタビュアーとして登場して、自ら案内役を務めている。
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それというのも、このドキュメンタリーが、ジェイコブ・ディランがウエストコースト・ロックの誕生から50周年を記念して新世代のミュージシャンたちとともにつくりあげたトリビュートアルバム、そのプロジェクトの一環として企画されたものだからだ。

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新世代のミュージシャンとのコンサート「エコー・イン・ザ・キャニオン・フェスティバル」の模様 /『エコー・イン・ザ・キャニオン』 (c) 2019 Echo In The Canyon LLC ALL RIGHTS RESERVED.

作品には、同じくこのプロジェクトに関連してロサンゼルスのオルフェウム・シアターで開催された「エコー・イン・ザ・キャニオン・フェスティバル」というコンサートの模様も、リハーサルの場面から随所に挿入されている。
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そこには、フィオナ・アップル、ベック、ノラ・ジョーンズ、レジーナ・スペクターなどの新世代の若いミュージャンたちが1960年代のウエストコースト・ロックを歌い演奏するという圧巻の場面も収められており、かつての楽曲やレジェンドであるミュージシャンたちに対するリスペクトに満ちた発言なども聞くことができる。

この過去と現在を繋ぐというドキュメンタリーの構成が、「エコー・イン・ザ・キャニオン」を単なるノスタルジアを語るだけの作品にはしていない。監督と脚本を務めたアンドリュー・スレイター(元キャピトル・レコードCEO)とともに、この作品のエグゼクティブ・プロデューサーも務めた1969年生まれのジェイコブ・ディランの次の言葉が印象的だ。

「いい音楽は当時もいまも変わらず、時代を超越している。だから特にわれわれがアレンジする必要はなかった。彼らの音楽に忠実に演奏してもいまに通じる音だった」

成立としてはジェイコブ・ディランのプロジェクトの1つとしてスタートしたものかもしれないが、映画「エコー・イン・ザ・キャニオン」は、立派に現代へも響く価値ある内容となっており、ロックミュージックの歴史をたどるうえでも格好のドキュメンタリーとなっている。

なお、1960年代から70年代にかけて、ローレル・キャニオンを中心にして起こった音楽シーンについてさらに知るためには、「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」(アリソン・エルウッド監督、2020年)、「ZAPPA」(アレックス・ウィンター監督、2020年)という、先立って公開された2つの音楽ドキュメンタリーも参考になる。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣 伸寿

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