では、「宇宙と食」において、具体的にどのように何を解決していくのか。
宇宙政策担当の内閣府特命担当大臣(当時) 井上信治氏は、「宇宙は最後のフロンティア。人工衛星からの画像や位置情報を活用し、農林水産業の生産性を高め、食の持続可能性の向上を図りたい。将来的には、完全資源循環型の食料供給システムを開発したい」と語っている。
例えば、人工衛星のデータを使った海洋情報サービスを行う会社「ウミトロン」は、魚の養殖の際に必須である水温や水質の情報を人工衛星から捉える。山田氏は「地球温暖化で海洋の状況が変われば、それに適応した魚種を育てる必要が出てくるだけでなく、海水温度によって魚の餌の食べ具合も変わってくるそうです。餌の食べ残しによる自然環境への影響を最小限にするためにも、宇宙からの視点というのは必須ではないでしょうか」と話す。
ジオ・ガストロノミーは、地球温暖化や海洋汚染のようなマクロな課題に対してだけではなく、地域にあるミクロな課題の解決にもアプローチしている。
例えば、冒頭の宇宙へのQRコード発信は、山田氏が理事を務め、去年3月に設立された、スペースSAGAによるもの。
スペースSAGAのSAGAは、本部のある佐賀県のことだ。実は県の中心に位置する佐賀平野は「ゼロメートル地帯」と呼ばれ、海面よりも低い地域に多くの人が暮らしており、大雨や台風で洪水などの水害が頻繁に起きる。「宇宙視点」つまり、宇宙衛星からの気象情報は、災害予知や対策をする上でも、必要不可欠なものでもあるのだ。
佐賀県武雄市の小松政市長は、「佐賀県は土地が低く、その場所でいかに農業を行っていくかを考える中で、自然と対峙するのではなく、共生をはかってきた。宇宙開発の技術を使ってこの問題を解決することが、地球全体の大きな光になるのではないか」と語っている。
まだ企画段階ではあるものの、スペースSAGAでは今後、未来の食料の選択の幅を広げるため、食生活の変化によって食べられなくなってしまった山野草など、日本各地に眠る食べられる植物を携帯アプリにアーカイブするプロジェクトや、オウンドメディアでの教育・啓蒙活動などを展開していく予定だ。
「ジオ・ガストロノミーは各地域に眠る食文化を見直すきっかけを作ることも目標にしている。これから、宇宙はますます身近になるはず。誰もが『自分ゴト』として宇宙を考える時代にジオ・ガストロノミーは最も近くにいる存在になりたい。その上で食は非常に重要であり、地球上のすべての人々と共に世界のフードシステムの未来作りに参画する意識のスイッチを押すようなプロジェクトを展開していきたい」と山田氏は考えている。
コロナ禍で、ここ2年ほど、国境を超えた移動が難しくなっている上に、国境は昨今の紛争の大きな火種にもなっている。宇宙から見れば、私たちは同じ「地球上に暮らす生物」だ。近視眼的になりがちな今だからこそ、より一層「国境を超えた宇宙視点」でのものの見方や考え方が、色々な場面で必要とされていると言えるかもしれない。