ビジネス

2022.05.07

「針」の概念を変える規格外の発想が生んだスキンケア化粧品

薬学博士でもある権 英淑。2021年9月に代表取締役社長に就任して以降も、自ら研究開発の現場に立つ。

近年、化粧品業界で増えている「溶ける微細針」を使ったスキンケア用品。大手もこぞって参入する新市場は、大学発ベンチャーによる発想の転換の産物だった。


針といえば、細長く、鋭利で、硬い。それが注射ともなれば、痛い、怖いというイメージをもつ人が大半だろう。この既成概念を覆そうとしている会社がある。京都薬科大学発の研究開発型ベンチャー、コスメディ製薬だ。

「私たちのマイクロニードルは将来、注射にとって代わる可能性をもっています」

代表取締役社長の権英淑は自信をのぞかせる。2008年、肌に刺しても痛みを感じない微細な針「マイクロニードル」の領域で世界初の製品を開発。これまでゼロから新市場を切り開いてきた。

同社の主力製品は、肌に貼り付けるパッチ型のスキンケア化粧品だ。長さ0.2mmの微細な針を剣山のようにシート上に並べたもので、特徴は溶解性であること。針そのものが、肌に含まれるヒアルロン酸を主成分として形成されており、貼り付けると先端部が水分によって溶け出して、薬剤や美容成分を角質層の奥に届ける仕組みだ。

従来の表皮に塗る化粧品と比べて吸収効率がよい溶解性マイクロニードルは、肌のハリを保つスキンケアをはじめ、育毛や唇用のパック製品などのかたちで世に送り出されている。資生堂など化粧品会社が近年こぞって参入している領域だが、そのほとんどに対してコスメディ製薬はOEM供給を展開。国内では独占的な地位を確立し、中国を中心にアジア・欧州の市場開拓も進めている。

開発のきっかけは、06年に権が参加した米国での学会だ。京都薬科大学薬剤学教室の研究員だった神山文男(現・代表取締役会長)と権が中心となって創業した同社は、経皮吸収技術(TTS)を強みとして、大手製薬会社から医薬品の受託研究や浸透性の受託試験を請負いながら、独自製品を生み出すための研究に励んでいた。権はその学会で、マイクロニードルが次世代の技術として盛んに研究されていることを知り、ある課題に着目する。「当時、研究されていたのは、ほとんどが金属製やガラス製のマイクロニードルでした。微細な針で薬剤を注入するというアイデアは面白いけれども、万が一、針が折れてしまえば、皮膚内に残留してしまう」。

より安全性を高める方法があるのではないか。そこで編み出したのが、肌に含まれる成分そのものを針にしてしまう規格外の発想だ。「普通だったら、そんな素材でつくれるはずがないと思いますよね。でも、否定するよりも、まずやってみるのが私たちのスタイル」。蓄積してきた経皮吸収の技術と知見を武器に、コスメディ製薬はその後2年で製品化に成功する。


シワの面積を測定・数値化して、マイクロニードルなどの商品の使用前・後での効果を定量的に検証。


2020年11月に稼働した吉祥工場の生産現場。肌に直接貼り付ける商品を扱うだけに、衛生管理は徹底している。
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文=眞鍋 武 写真=前 康輔 イラストレーション=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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