スタートアップに携わり見えてきたのは「事業の成功はさまざまな形があるが、失敗要因はどこも似たようなもの」ということだ。
ゲームの世界では、初めてプレイする場合はひっかかるが、一度経験すればミスをすることはない「初見殺し」という概念があるが、それは起業の世界でも散見される。
日本のスタートアップ企業の資金調達額は増加傾向にあり、海外投資家も視線を向け始めた。起業家たちに追い風が吹いていることは確かだが、一方で多くが、期待していた成長を実現できず、イグジットを諦めているのも現実だ。
シードからレイターまで、各ステージで次の段階に進めるのは概ね半数。成長できずに時間が経てば、スタートアップと呼ばれていた会社も出資を受けただけの中小企業になってしまう。
ではその成長を阻む理由は何か?
本連載では、スタートアップに起こりやすい「失敗あるある」とその回避策を網羅することを目標に、経営者に今まで直面してきた課題やそれをどう乗り越えてきたかを聞いていく。
初回は、私がこれまでに発見してきた「スタートアップの3大失敗あるある」を紹介する。
失敗あるある1:トラクションが上がらない
スタートアップが一番最初に直面する問題は「トラクション」だ。
トラクションとは、スタートアップにおいては「成長する兆し」を意味し、成長曲線を右肩上がりに伸ばしていくために重要なKPI。その指標は会員登録者数やトライアル利用のユーザー数の成長度合いなど、事業内容によって変わる。
創業初期では得てして、起業家が「こんなソリューションがあったら売れるに違いない」と想像してサービスを作ってしまうが、できあがるのは「なんとなく便利なもの」。しかし、クリティカルに役立つもの以外は使われない。
多くのスタートアップ専門家も指摘しているが、顧客とその課題の明確化は極めて重要なのに、なぜか起業家はそれを素通りしてしまう。売り上げが上がらないどころか無料登録もしてくれないというのは事業立ち上げ初期では珍しくない。
マーケットというのは特定の属性をもった顧客の集まりだ。顧客に興味を持たれないソリューションで市場を取ることはできないので、当然資金調達もできず事業は失敗してしまう。