せりか:地上局を増築するのではなく、衛星間通信や光通信を活用するメリットはどのようなところにあるのでしょうか?
トーマスさん:地上局を建設するコストは変わりませんが、衛星の打ち上げにかかるコストは下がってきています。このままさらに打ち上げにかかるコストが安くなっていけば、衛星間通信や光通信を利用した方が衛星データビジネスのコストパフォーマンスが良くなっていく可能性があります。ポテンシャルがあるなら、チャレンジするべきですよね!
地上局のイメージ
レイテンシを削減するために地上局を増築していたのが、衛星間通信や光通信を活用するように変わってきているのは、誰かに連絡をするときに手紙を書いていたのが、E-mailやFacebookのメッセンジャーを利用するようになったことと同じように思います。
せりか:なるほど。わかりやすいです! 大容量のデータをより早くダウンロードできるようになったら、どのようなことができると思いますか?
トーマスさん:そうですね……。今後ホットになっていくトピックの一つは、やはりハイパースペクトルでしょう。ハイパースペクトルセンサは、波長帯の電磁波を細かく観測するので、同じ地上分解能の光学画像よりもデータ容量が大きくなります。ハイパースペクトルセンサで取得したデータは解析が難しいのですが、様々な解析手法が見えてきたら、もっと頻繁に地上にダウンロードしたいと思います。
では、私からもセリカに質問させてください! ハイパースペクトルセンサで取得したデータをリアルタイムで地上にダウンロードできるようになったら、どのようなことをしたいですか?
せりか:そうだな……
トーマスさん:セリカは宇宙飛行士になる前は医者だったと聞きました。例えば、衛星データと感染症のデータをマッピングできるソリューションがあったらどうしょう?
(c)小山宙哉/講談社
せりか:環境情報と健康被害の関連を分析すれば、感染症の流行を予測できそうですね!実際に、アフリカのビクトリア湖に生育する水草は、コレラ菌を媒介する可能性が指摘されています。JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」の衛星データから、水草の繁殖面積を推定し、コレラ患者数などの疫学的データとの関連性を調査する研究が行われています。
また、JAXAとNASA、ESA(欧州宇宙機関)は共同で、衛星データを利用した新型コロナウイルス感染症に関するハッカソンを開催していましたね。
ハイパースペクトルセンサを利用できれば、取得できる環境情報も増えるので、分析の幅が広がりそうです。ハイパースペクトルデータを活用すれば、多くの方の命を救ったり、健康を促進したりできる医療や公衆衛生のためのソリューションが生まれるかもしれません!
せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第六弾のゲストは、Satellogicで事業開発を担当しているトーマス・バン・マートルさんでした。衛星データの活用が期待される分野として、温室効果ガスの排出量のモニタリングや医療・公衆衛生に関する分析などが挙がりました。未来のものだと思われているテクノロジーも、宇宙開発が加速することで、そう遠くないうちに実現するかもしれません。
次回は、せりか宇宙飛行士とワープスペースのCTO・永田が「地球外生命体」について議論する予定です。お楽しみに。