そんな惨状を、イスラエルから違った角度で見ている人物がいる。「現在のウクライナにおける戦争では、広範囲でサイバー攻撃も行われています。現代の戦闘では、サイバー能力がもう一つの兵器になっています」
そう語るのは、世界トップクラスのサイバー能力を持つイスラエル軍「8200部隊」の元幹部、エラン・シュタウバーだ。サイバー戦の指揮や、敵国の情報収集に携わった経験を持つ。
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そのシュタウバーは2020年にイスラエルで「UltraRed(ウルトラレッド)」を起業。サイバー脅威に対抗できるパワフルなセキュリティシステムを開発し、政府機関や民間に向け、サービスを提供している。
2021年12月には日本に進出し、その動向を早い段階から聞きつけていた日本政府の機関や大手通信会社は、すでに同社のシステムを導入している。
システムは社名と同じ「UltraRed」。従来のセキュリティソリューションと違い、組織のネットワークにシステムをインストールしたり、それを管理するスタッフも不要。
特徴は、遠隔から自動で組織や企業の使うネットワークの詳細情報を幅広く特定できること。監視対象となるユーザーの組織を登録するだけで、ドメインやサブドメイン、IPアドレスなどすべてを完全に把握し、そこからさらに外部につながる関連システムの情報もすべて拾いマッピングする。
ネットワークの動きを可視化し、セキュリティの「穴」を検知。顧客に適切な対応を促すのだ。
相次ぐ企業への攻撃
「サイバー戦争は『静かな戦争』です。同じ戦争でも人命が奪わず匿名で実行できるんです」(シュタウバー)
その「静かな戦争」は、実際の戦闘行為とは違い、私たちの周りでも起きている。
ターゲットとなるのは、政府機関や民間企業で、「企業が狙われる場合はほとんどが金銭目的」とシュタウバーは言う。日本でも被害が相次ぎ、帝国データバンクが3月に行った調査によると、2月からの1カ月で攻撃を受けた企業は3割近くに上る(調査期間は2022年3月11日〜14日)。
近年は、国もサイバーセキュリティ対策にかなりの予算をかけるようになった。
しかし、である。
三菱電機や富士通、カプコンなどを始め、最近では、デンソー、東映アニメーションなども被害に遭ってしまった。当然ながら対策はきちんと行っていたにもかかわらずだ。
最近の日本企業への攻撃には、「海外拠点や子会社、関連会社などが入口として狙われるケースが多い。企業がサプライチェーンへの攻撃まで対策を徹底できない実態がある」とシュタイバーは指摘する。
事実、先に挙げた企業のケースでも海外の関連会社から侵入を許してしまっている。