芸人を支えるK-PRO代表 児島気奈が「お笑い界の母」になるまで

「お笑い界の母」として慕われる児島気奈


オンライン配信をスタート


2019年末、順風満帆だったK-PROに、新型コロナウイルスの猛威が降りかかる。

翌年春以降は、ライブエンタメ市場が一挙に崩れ去った。予定していたライブをすべて中止する状況が3カ月以上続き、1000万円にも届く程の赤字が生じていた。“お笑い第七世代”の登場で右肩上がりの成長をみせていた「お笑いライブ」の現場にもその影響は顕著に現れ、児島は頭をかかえていた。

さらに、ライブが再開した後も、客席の間隔を空ける必要があり、収入が減少する状態は続いた。そのため児島は、ライブのオンライン配信を始める決断をする。これが結果的に、コロナの影響でネタを見せる機会が少なくなっていた芸人を救うことにもつながった。

現在、K-PROが主催するライブは、20ほどのブランドに分けられている。毎回常連の芸人が多い「K-PROプレミアムライブ」や、芸歴8年以下の芸人が出演する「ブレナイ」、バトル形式の「トッパレ」など。

最も規模の大きなライブが「行列の先頭」で、5月に行う次回公演では過去最大の2000人規模の集客に挑戦する。錦鯉、アルコ&ピース、ランジャタイなどテレビで多く見かける登り調子のメンバーが勢ぞろいするライブで、過去にはバカリズムやサンドウィッチマン、東京03なども出演してきた。


筆者作成

コロナ禍では、これらの公演のほとんどでオンライン配信に対応した。もちろん配信することについては賛否両論あったが、児島は「配信なら自宅にいながらにして芸人さんを知ってもらえて、その後劇場に来てもらえるきっかけにもなる」と考えた。

「以前は芸人さんも賞レースを意識して、オンラインではネタを配信しないという傾向がありました。しかし最近ではYouTubeで公開している芸人さんもいますし、考え方が変わってきましたね。それに、お客さんからすれば、知っているネタのほうが笑いどころが分かって楽しめる、ということもあるようです」

結果的に、現在の劇場と配信の収入比率は、おおよそ7:3まで伸びている。地方のファンや、劇場でライブを見た後におさらいをするために配信チケットも買う、というファンの需要もキャッチできるようになった。

コロナ禍で「お笑い専門劇場」をオープン


ただ、当時K-PROは劇場を持っていなかったため、オンライン配信のための機材を日々異なるライブ会場に持って行くのは大変な手間だった。そこで、児島は考えた。

「ライブ配信のための機材持って移動するくらいなら、いっそ劇場を立ち上げよう」

劇場側もコロナ禍で公演中止が相次ぎ採算が取れない状況だったため、児島の提案は受け入れられ、新宿にある小劇場を年間契約で借りきることになった。

それが、2021年4月にオープンしたお笑い専門劇場「西新宿ナルゲキ」だ。劇場名には「笑いの鳴り響く劇場」と「若手芸人がスターに成り上がる場所」という意味を込めた。

全148席のキャパシティで、1日に2回、多い日は午後・夕方・夜と3回のライブを開催しており、その数は1年間で約700本に及ぶ(ナルゲキ以外の劇場でも約100本開催)。コロナ禍にありながら、大手の吉本以外で、このレベルの興行数を実施した主催者はいないだろう。
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文=矢吹博志 構成=田中友梨 撮影=山田大輔

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