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ビジネス

2022.04.16 12:00

暗黙知は要らない、飲食ビジネスに汎用性を。「俺ハン」から行列店「挽肉と米」へ


僕たちも、個々の料理のレシピ、提供の形など、「コンテンツ」と呼べるクリエイティビティは持っているんです。でも、店をどんどん増やしていくのは物理的に大変ですし、それ以上に、人を育てることに時間がかかる。そして広がれば管理コストが利益率を下げるし、1店舗で実装できた魅力を多店舗に維持、安定させることも難しい。そういう点で、プログラムを組んで、うまく動けば同じ機能や効果を広く展開できるIT分野とは再現性に大きな差があります。

そこで、ライセンスビジネスでスケールすることを考えて「山本のハンバーグ」で実現しました。ライセンスとお店づくりということが、1つのコンテンツになり得るという思いはここに端を発しています。


(写真=曽川拓哉)

挽肉と米
(写真=曽川拓哉)

コンテンツとしてつくり込み、商品ありきの逆算型発想で実現した「挽肉と米」


ただ、ライセンスでスケールするとはいえ、「山本のハンバーグ」では、供する料理はそれほど再現性が高くない。そのため、国内で大きく展開したり、海外にまで広げていったりということは、僕たちは「やらない」選択に帰着しました。

それで、「山本のハンバーグ」をスケールするうえでのブレーキになっていた課題を全て解消しながら、コンテンツとしてよりつくり込んだのが「挽肉と米」なんです。

飲食店は初期投資がとても大きく、投資回収に非常に時間がかかったりして、商売としてはなかなか厳しい。でもそれだけお金をかけて店をつくるなら、「来てもらう理由」もそれだけしっかり設計しなければならないし、できるはずなんです。

店舗デザインにこだわる飲食店もこの頃は多くありますが、実際はそのこだわりがオペレーションに紐づいていない場合が多い。商品の再現性を高めるために、ハード面とソフト面がかみ合っていないことが多いのです。「挽肉と米」では、店舗があって、そこで何を提供するかではなく、初めに「商品ありき」の逆算型発想で店づくりをしたつもりです。

肉の美味しさを考えるとき、たいていは「柔らかさ」とか「脂肪の甘み」を思い出しますが、実は「できたて」がはらむ美味しさの率がすごく大きいと私は思っています。だからこそ「挽肉と米」では「挽きたて 焼きたて 炊きたて」をコンセプトとして、「美味しい瞬間」を提供することにこだわりました。

シンプル、だから模倣もされる、だが──


従来、飲食業の多くは料理人のスキルやパフォーマンスで商品の価値を提供してきた。でも、コンテンツとしての飲食は、「暗黙知」みたいな天才肌のスキルに依存しない「再現性の高さ」を目指してもいいのではと考えています。料理人が代わっても商品価値が左右されにくい設計ができるかどうかで、その店のサステナビリティは定まってくると思います。

メインの商品をハンバーグ1本に絞った「山本のハンバーグ」でさえ、メニューはいろいろあるので、オペレーションはやや複雑なんです。従業員の教育は必要だし、料理人の能力によって出てくる商品にばらつきが生まれるという状態を抱えながら、お客様に体験価値を高く評価していただき、魅力を大きく感じていただける、お客様の期待に応える店づくりをめざしてきたわけです。

そして、「挽肉と米」ではメニュー自体も1種類にして、「できたてである」点だけにこだわってコンテンツを設計しました。やっていることがすごくシンプルなのです。
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文=石井節子

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