経済・社会

2022.04.08 17:00

ウクライナからドイツへ。母娘が経験した命がけの避難


「20日の日曜に、Elenaさんたちを訪問しました。その時には、私たちのためにウクライナ料理の食事をつくって待ってくれていました。顔つきも数日前とは違い、淡々とウクライナの様子を話してくれました。

私たちからはあまり突っ込んでウクライナでの様子を聞かないようにしていましたが、最初に会ったときは泣き出したり、黙り込んだりしていた娘さんが、この日は私に盛んにウクライナ語で話しかけ、元気な様子でした。

でも、他の子どもたちに遊び場で会うと、目をそらし、その仲間に入っていこうとはしません。娘さんは小学1年生になったばかりで、いまでは友達がどこにいるかもわかりません。そんななか、近所の人たちからは、もしElenaさんの知り合いで、宿泊先を探している人がいたら、ぜひわが家にという輪がどんどん広まっていきます」

私はこれを読んで、さすがドイツだと感心した。日本でも少しずつウクライナからの避難民の人たち受け入れは始まっているようだが、まだまだ少数。少なくとも私のまわりで「受け入れた」「受け入れる予定がある」という人は1人もいない。

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壊滅状態となった市街地(撮影場所:ハルキウ)

戦争反対や、ウクライナ支援の募金活動などは、各地でスタートしているが、日本は言葉の壁もあるせいか、「避難民の受け入れ」ということを、日常の延長として向き合える人はまだまだ少ない。私も、では明日受け入れられるかというと、私の知人のように即座に「Yes」と言える自信はない。

「明日はElenaさんが娘さんとわが家を訪れ、仕事の打ち合わせの後に、ウクライナの人は無料の動物園に行くことになっています。私はこんな良い人たちに家を使ってもらって本当に嬉しいです。いまは早く娘さんが通える小学校を見つけることが、私の使命です。Elenaさんは幸運なことに、こちらでも仕事を続けています。これも彼女の精神的な支えとなっているようです」

そして、彼女のメールの最後は「4月5日で7歳になる娘さんに、ランドセルをプレゼントすることにしました」という一文で結ばれていた。なんて素敵な言葉だろう。テレビや新聞のニュースでは知り得ない彼女たちの暮らしのなかでの助け合いの心と行動。多様な文化や民族が隣り合って暮らしている欧州の人々の姿がそこにはしっかり生きづいている。まさに本来の交流の姿だと心から思う。

以前もこのコラムで書いたことだが、観光交流や国際交流は、ビジネスのためだけにあるのではなく、困ったときにこそ「お互いさま」の精神で助け合うことだ。そこでの共感力や、他者を思いやる心、そして国籍や宗教観、価値観などの違う者同士でも「人道」という観点での理解と尊重を持ち続けられることは、まさに「平和」な世界があってのものなのだとつくづく感じた。

観光振興ができるのも「平和」だからこそだ。この2年余のパンデミックの先に、誰がこのような武力による他国への侵攻を予測しただろう? このようなことが着々と準備されていたのかと思うと本当に悲しいし、情けない。

観光産業に携わる私たちは、世界を明るい「光」で輝かせるという使命がある。だから、いまこそ、観光の持つ力を信じ、世界が間違った道へと進まないよう、できることを行うこと、その想いをしっかりと胸に刻み、発信し続けていきたいと思う。

連載:サステナブルツーリズムへの歩み 〜岐阜から発信する未来の観光
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文=古田菜穂子 写真提供=Elena

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