「森はかつて『日本最大の資源』でした。ところがいまは『大きな課題』になっている。ほとんどの自治体が、森林問題に頭を抱えています」
そう語るのは、サテライトオフィス誘致やデュアルスクールの提唱など、地域の課題解決や振興事業で多くの実績をもつ、あわえ代表の吉田基晴だ。2021年4月、「森林が中核を担う地域づくり」を目指して、四国の右下木の会社を設立した。新たに挑むのは林業だ。
企業名にもある「四国の右下」とは、吉田の生まれ育った美波町がある徳島県南部と高知県東部のこと。新会社設立の背景には、この地域の森林が歩んだ歴史が深くかかわっている。
「電気やガスが普及するつい90年ほど前まで、人々の生活を支える燃料はほとんどが薪(まき)や炭でした。『四国の右下』はその薪(しん)炭(たん)産業で栄えた地域。ここの森で取れるウバメガシやカシなどの木材が、関西都市部のエネルギーを支えていたのです」
当時、木材の安定供給を可能にしていたのは、江戸時代から300年ほど続く「樵木林業」と呼ばれる方法だった。胸高直径1寸以上の林木のみを伐採し、1寸未満のものは残して萌芽更新させる。ゼロから木を育てるよりも5倍ほどの速さで出荷できるため、大きな需要にも対応できた。「森林の畑」のように生産性が高く、同時に環境も保全できる技法だ。
しかし、時代の変化とともに薪炭の消費量が急激に減少すると、森の商用価値は失われ、林業の担い手は減った。人の手が遠のき放置された森林は、大樹化による倒木や虫害、違法伐採などの危険にさらされることになった。いまや、水を蓄え土を結ぶ森本来の機能まで失いつつある状態だ。
森林回復のノウハウを全国に
「いま日本は森林資源過多の状態。植えるのではなく適切に『伐る』ことが必要なんです」
いまこうした問題を抱えているのは、「四国の右下」だけではない。森林の危機は全国に広がっており、四国と似たような状況に置かれている自治体は非常に多いのだと、吉田は言う。