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2022.04.04 12:30

正しく伐って資源を生かす、伝統的林業を現代に。四国の右下木の会社の挑戦


森林の保全や整備を進めるべく、国は24年から1人あたり毎年1000円の森林環境税の徴収を開始する。先立って19年から各自治体に森林保全や整備用の資金が支給されているが、多くの自治体は、森林問題に対処する具体的なプランもなければ担い手もいないのが現状だ。そんな状況を改善するために吉田が進めているのが、効率性(ハイパフォーマンス)と環境保全(サステナビリティ)の両面に優れた樵木林業を、いまに合うかたちで再産業化させる試みだ。

「木材が再び価値を生み出すことがわかれば、人は森に入るようになる。森を中心に地方経済が活性化すれば、環境保全にもつながります」


徳島県南部の照葉樹林に自生するのは、ウバメガシやカシなど。これらは重くて堅く、長時間よく燃える特質があり、炭や薪に向いている。樵木林業で伐採した木は枝分かれするため、切るほど一株から取れる量は増えていく。今後、四国の右下 木の会社では、林業の担い手となる後継者育成や移住促進にも力を入れていく予定だ。樵木備長炭や樵木炭、また木工製品などをブランド化し、新たな木材需要を生み出すことで森林を生き返らせる。

現状は、地元の木材を活用した備長炭や薪の新ブランド開発を進め、付加価値を高めた商品として販売するほか、エコツーリズムなどのプログラム事業も展開することでビジネスを成立させる構想だ。

しかし、相手は手付かずの森である。必ず成功するという確証は吉田にもまだない。そもそもスタート地点に立つまでに時間と手間がかかる。昨年から、吉田たちは木を伐るために必要な重機の免許を取り、林道づくりを開始。最近ようやく木を伐採できる下地が整った。本格始動はこれからだ。ゆくゆくは、四国の森林再生事例で得られたノウハウを全国に展開し、同じように森林問題で悩む自治体と連携していきたいという。

「かつて木と人の暮らしは密接でした。その歴史を見れば、日本のどの地域でもその地に合った新しい林業のかたちをつくれるはず。木の文化的な価値を見いだして新産業を生み出し、森林を中心に人の暮らしが成り立つことを実証したい」


吉田基晴◎1971年、徳島県海部郡美波町生まれ。サイファー・テックの美波町進出を機に、あわえ、四国の右下 木の会社の代表取締役、ミライの学校の理事・会長を務め、行政や地域住民とともに地域振興に取り組む。

文=一本麻衣 編集=松崎美和子

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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