さらに日本固有の物価上昇の理由もある。6年7カ月ぶりに1ドル=125円台を記録したドル円相場、つまり円安だ。
コロナ禍では海外旅行に行く機会はほとんどなかったはずなので、このことは子どもたちには実感が湧かないかもしれないが、円安になればなるほど、海外から輸入したものの値段は上昇する。日本は原油などのエネルギーや、多くの農水産物を輸入しているため、円安が進めば必然的に物価も上昇していく。
大人に説明するのであれば、なぜ円安が進んでいるのかという話を国内外の中央銀行の金融政策と絡めるのだが、子どもたちにはまず円高、円安の意識と、それぞれがどのような影響をもたらすのかという話をしたほうがいいだろう。
意外と大学生や若手の会社員だと勘違いしているケースもあるが、1ドル=100円と1ドル=120円では前者の方が円高であり、後者は円安ということになる。
円安の場合、前述した通り輸入する価格が上昇するが、見方を変えれば輸出産業にとっては海外での販売価格が下がることで輸出競争力が高まるともいえる。円高の場合はこの逆の現象が起こる。
経済だけでなく政治にも関心を
このように身近な値上げという現象から、原材料価格上昇の背景や、為替が貿易に与える影響などを知ることで経済を学ぶことができるのだ。
仮にこのままモノの値段が上がり続けるのであれば、それを「インフレ」と呼ぶ。一方で、モノの値段が下がり続けるのであれば、それは「デフレ」という。
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気になるのは、この値上げラッシュがずっと続くのかということだろうと思うが、当然ながらずっと続くことはない。なぜなら、値段が上昇し続ければ、徐々に消費者が買わなくなる、いや買えなくなるからだ。
もちろん、物価が上昇するのにあわせて賃金も上昇するのであれば話は別だが、少なくともこの30年間で日本ではたいして賃金が上昇してこなかったことを考えれば、少なくともその前提が成立するのは難しいだろう。
いまは値上げラッシュが起きているため、もっとインフレが進行すると懸念する人が増え続けているが、もう少し思考を深めデフレを懸念する人も出てくるのではなかろうか。
景気が悪く、賃金も上がらないなかで、モノの値段だけが上がり続ければ、家計は厳しくなり、財布の紐は固くなる。そうなれば、いずれはモノが売れなくなるため、企業は値下げをしてなんとかモノを売ろうとする。しかし、原材料価格は変わらないのであれば、代わりに人件費を下げて利益を維持しようとする。
人件費が下がるということは、さらに家計は厳しくなることを意味し、より財布の紐は固くなる。そうなれば企業は再び値下げをし……、このような負のループを「デフレスパイラル」という。このスパイラルに突入しないためには政府が適切な政策を打つ必要があるのだが、果たして結果はどうなるだろうか。
ここまで考えを広げれば、今度は経済だけでなく、政治にも関心を持つことができるようになる。値上げラッシュという身近な事実を題材にして、親子でそのことについて話す機会を設け、ぜひ子どもたちの興味関心の対象の幅を広げてあげていって欲しい。
連載:0歳からの「お金の話」
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