多角的に広がる「ガチ中華」の世界。名店の特徴とは?

インド中華の「チキン・マンチュリアン」はチリソース味


ポルトガルの影響下にあったことから広東とポルトガルの味覚がミックスして生まれたマカオ料理も南洋中華のひとつだ。その代表料理は「咖喱牛腩麵(ガーレーアウラムミン)」という豚バラ入りカレー風味のスープ麺。中華にカレーという要素が加わることが魅力的だ。マカオ料理は、東京・四谷の「マヌエル四ッ谷」などが知られている。

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マカオ料理の「咖喱牛腩麵」はポルトガル風に現地化した中華

(10)海外現地化系
最後のジャンルは、このように中国由来の料理が海外で「現地化」してオリジナルなメニューとなったものである。

シンガポールからさらに西へ向かったインドで一般に食べられている中華料理のことを「インド中華」という。19世紀後半にイギリス植民地だったインドに移民した中国系の人たちが広めたものだが、味はカレー風味ではなく、チリベースの味つけが特徴で、現地化の度合いが高い。

食器や調理器具の輸入卸業を営み、インド料理に関する著書のある小林真樹さんによると、インドには「ゴビ・マンチュリアン(カリフラワーの満洲風グレイビー)」や「シェズワン・フライドライス(四川風チャーハン)」なる奇妙なネーミングの中華料理があるという(実際には満洲や四川の由来ではなく、特別な意味はないそうだ)。これらが食べられる店はそれほど多くないが、東京・西大島の「マハラニ」などのいくつかのインド料理店がある。

同じく韓国で現地化したのが「韓国中華」。黒くて甘い「チャジャンミョン(炸醤麺)」やスープが赤くて辛い「チャンポン」がそれに当たる。中国の同名の料理とは味も見た目も別物だ。中国北方でよく食べる炸醤麺が韓国に伝わったのは20世紀初頭で、戦後、味を韓国人好みに変えたことで「国民食」になったといわれる。韓国中華は「新宿飯店」や「香港飯店0410」など、新宿歌舞伎町のはずれの職安通り沿いに数軒ある。

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韓国中華の「チャジャンミョン」には黄色いたくあんが付く

こうしてみると、日本の町中華は、インド中華や韓国中華と同類といっていいだろう。日本で中国由来の料理が現地化して、国民食にまでなったラーメンはその代表だと思うが、世界各地で同じような海外現地化系の中華が存在しているのである。

いずれにしても、現在、起きている「ガチ中華」のブームは、日本人の本物を求める志向にマッチしていると思う。現代中国料理に限らず、さまざまな人たちの手で供される中華料理は、これまでの和風中華では味わうことのできない味覚を私たちに体験させてくれる。

今回のジャンルの分類は、東京ディープチャイナ研究会のメンバーが発掘してくれたSNS投稿や食レポなどを通じて得られたもので、現在も進行中のものだ。今後も日本の中華料理のシーンにどんな新しい流れが現れてくるのか楽しみである。

連載:東京ディープチャイナ
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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