こうした関係性は、従来のヘルスケア、ウェルネスという既成概念内で消化することに違和感がある人も少なくないでしょう。しかし、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態であるウェルビーイングというコンセプトを上位に置くことで、美味しさと健康を両立させることに幅を持たせることが可能になったのです。
身体が健康である状態“ヘルス”から、身体と心と社会的に健康で安心な状態“ウェルネス”を経て、“自分自身の心と体が本来あるべき状態”である“ウェルビーイング”の時代に入りました。
マーケットにウェルビーイング視点を
ウェルビーイングにおいて重要なポイントの一つが多様性の受容です。
幸福の在り方は人それぞれ異なります。そのため一つの幸せ像を規定してすべての人に押し付けることは不可能に近く、一人一人の異なるウェルビーイングがあることを前提とすることは当然と言えるでしょう。
先程の食品会社のプロジェクトにおいても、全ての製品を低糖・低脂肪化するのではなく、美味しさを優先し追求した原材料選定をするメイン商品と、低糖・低脂肪化したヘルシーバージョンの2つの選択肢を同時に提供することで、多様なニーズに対応できるウェルビーイング的アプローチを製品開発の指針としました。
これまで多くの企業は、製品の機能的価値を中心にマーケティングを行ってきました。
例えば、車メーカーは長らく走行性能を、そして現在は環境性能を前面に出して訴求していますが、今後自動運転がデフォルトになると今度は運転時の移動空間としての快適さが生活者に選ばれる重要なポイントになるでしょう。お風呂やトイレの洗剤も汚れ落としのパワー競争からスポンジやブラシを使わない、時間や手間を省くことで家事ストレスから解放するという提供価値に進化、拡張しています。
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このように、さまざまなカテゴリーのビジネス領域にウェルビーイングの視点が加わることで、顧客へ提供できるベネフィットを広げたり、高めたりすることが可能になります。
幸福とは何かの研究、追及は著名なアカデミアの専門家や研究者の方々にお任せして、私のこのコラムでは、ビジネス課題をウェルビーイングのアプローチによって解決し、どのように新市場を創出していくかについて、マーケッターの視点で事例やインタビューなどを織り交ぜながら考察していこうと思います。