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2022.04.05 08:00

ヘルスケア、ウェルネスを経て。ビジネスにウェルビーイング視点を

鈴木 奈央
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12年ほど前、化粧品メーカーや下着メーカーと共に「美魔女コンテスト」の立ち上げに参画し、ミドルエイジ女性にとって欠かせない美と健康を融合した新市場を創造する経験から、ヘルスケアとウェルネスというアプローチでは捉えきれないインサイトがあると感じるようになりました。

その先にある「ウェルビーイング」を考えるに至ったきっかけは、食品メーカーの商品開発の基本方針を策定するプロジェクトでした。テーマは美味しさと健康の両立です。


JGI / Jamie Grill / Getty Images

美味しさと健康はトレードオフ?


食品は人が健康を維持するための基本で、その機能は3つに分類されています。

その一つが最も重要な栄養機能(一次機能)であり、次が感覚・嗜好機能(二次機能)、そして三つ目が健康の維持や向上に関与する生体調節機能(三次機能)です。

栄養機能と生体調節機能は共に健康維持に深く関わっています。しかし、近年は糖分や脂質などの過剰な栄養摂取が健康にネガティブな影響を与えることが多くの研究から明らかになってきました。ロカボや糖質オフ、脂肪ゼロなどを謳う製品が市場には数多く登場しています。

ヘルスケアという健康維持の観点からみると、これらのオフ製品の有用性は高いと言えます。一方で嗜好性という観点からすると、甘味に深く関わる糖分やコクの元となる脂肪を抜いたり減らしたりすると美味しさが損なわれてしまいがちです。美味しさと健康というトレードオフの関係にあるこの二つの要素をどう両立するのかがこのプロジェクトの最大の争点でした。

近年の食品加工技術の進化で、大幅に糖分や脂肪分を減らしても美味しい製品の開発を実現することが可能になりましたが、チョコレートやプリンなど、甘さや濃厚さが美味しさに直結するデザート製品カテゴリーでは現在の技術レベルではどうしても限界があります。

その解決の糸口を探す中でキーとなったのがヘルスケア、ウェルネスの上位概念としてのウェルビーイングというアプローチです。我々は健康になるために生きているのはなく、幸せに生きていくために健康であることが必要だと定義することで新たな視点が生まれました。

「幸せホルモン」の役割


例えば、適度な運動をしたり、気の知れた仲間と食事をしたりすると、私達は心地よさや充足感を感じますが、それは体内にセロトニンという神経伝達物質が分泌されるからです。

“幸せホルモン”とも呼ばれるセロトニンは、日光を浴びたり、リズムのある運動を行ったり、スキンシップや団欒などの交流によって分泌されます。そして、体の神経系に作用し、健全な精神状態を維持し健康に欠かせない睡眠の質を向上させたり、血流の維持などの心血管系、体温コントロールなどにも影響するなど、生体維持機能を向上させます。


images by Tang Ming Tung / Getty Images

そう考えると、栄養素の観点では不健康とされる脂っこい食事やこってりと甘いデザートであっても、家族や仲間と食卓を囲んだり、テラスで楽しむシチュエーションであれば、セロトニンが分泌され、健康によいと見ることができなくもありません。
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文=藤田康人

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