ワタリウム美術館CEOに聞く、センスのいいアートとの付き合い方

ワタリウム美術館 ディレクター 和多利浩一(左)、Urban Cabin Institute パートナー山田理絵


山田:ハイエンド層にとってアートは、最後に行き着き、探求してやまないものだと思います。そのような方々を迎えたりサービスを提供する人たちがアートを知っておくのは必須でないかと思うのですが、どうすればいいでしょう?

和多利:もちろんアートを知っていただきたい。一番は自分の足で実際に観にいって欲しいですね。日本ではあまり聞かないのですが、資金に余裕がある方は、アートアドバイザーを雇って、勧められたものは最低限見るようにした方がいいですね。ヨーロッパでは、有名キュレーターがコレクターのためにその月に見るべきものやコレクションすべきもの、読むべき本や最低限の知識についてのレポートを作ることもあります。

山田:最近の日本のコレクターをどのようにご覧になっていますか?



和多利:2000年以降のインターネットで成功した人たちが、比較的日本でしか流通しない、日本でしか話題にならない作家たちの作品を、かなり高値で買っているのが心配です。そうした作品やプライスは、インターナショナルには通用しません。おそらくあと3年くらいでドーンと価格が落ちる。するとアートに関わる人たちの人口が減っていってしまうので、やっぱり多くの人に満足してもらえるような状況にしたいですね。

山田:ハイエンド層は、アートの他にも建築、ファッション、食、イノベーション、ウェルネスなどに関心があるので、これらの分野を横断してコラボをすることで真に豊かなライフスタイルが実現できるのではないかと考えています。アートの観点からご提言はありますか?

和多利:和の伝統と現代アートっていうのは、一つ面白いかなと思います。あと興味深いのは「食」ですね。

山田:おっしゃるように食べ物そのものも大事ですし、例えば家族の食卓で、世俗的なことばかりでなくて、文化や新たな体験をシェアするようなことがもっと日常的に行われるような環境やマインド作りが必要ですよね。

和多利:本当ですね。文化に触れるというのは、幼い時から少しずつ育てていくものなので、食事の時の話題がテレビやアイドルの話だけでなくて、哲学やアート、文学などについての会話ができるといいですね。食は素材に地域性があるし、文化にもつながり、特に大切なサブジェクトだと思います。

僕らのやっている現代アートは意識転換を目指していて、例えば、それまで価値がないとさていた“井戸茶碗”を、利休がお茶の世界で使用することで別の付加価値が誕生したのと同様です。ただの既製の便器も、マルセル・デュシャンがアート作品として展覧会で展示したことで、別の意味と価値を表すことができたわけです。食も同様で、たいしたことのない素材も手を加えることによって蘇っていくというのはイノベーションだと思います。

山田:新たなコンセプトを投じたり、意識を変えることによる高付加価値化ですね。そのためにすべきことは?
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文=山田理絵

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