ワタリウム美術館CEOに聞く、センスのいいアートとの付き合い方

ワタリウム美術館 ディレクター 和多利浩一(左)、Urban Cabin Institute パートナー山田理絵

グローバルアート市場は、ここ20年拡大傾向にある。世界のメジャーなアートフェアは、数日間で巨額の経済効果をもたらし、国や都市のブランディングや地域活性にも大きく寄与している。

付加価値のある経験を求め、時間やお金に糸目をつけずに世界を飛び回る“ハイエンドトラベラー”にとっても、アートは最大の関心ごとの一つで、その多くがアートコレクターでもある。

ハイエンド・ブランディング・プロデューサーの山田理絵が、鎌倉にある「BLACK CUBE」にハイエンドな価値を提供しているトッププレイヤーを迎え、そのヒントを聞き出す対談連載。

第4回は、日本の現代アートの草分けであるワタリウム美術館でディレクターを務める和多利浩一氏に、知られざるコレクターの世界やアーティストとの交友録、個人や国がアートとどう向き合うべきかを聞いた(このトークの対談全編はこちら)。


山田:多くのアーティストやコレクターとお付き合いがおありと思いますが、どんな出来事が印象に残っていますか?

和多利:ニューヨークに住むビックコレクターを訪ねたときのことですが、美術館のようなご自宅で、窓の正面にはメトロポリタン美術館。まさにアートを我が手にしているような借景で驚きました。一方、ヨーロッパのコレクターたちは何世代にも渡ってコレクションを続けられていて、いろいろな時代の美術が一同に展示されていて歴史の深さに感銘を受けました。

山田:そういう方々はアートをどうやって生活に取り込んでいますか?

和多利:2タイプに分かれています。一つは投資としてアート作品を購入されている方。もう一方は、本当にアートが好きで、自らのテイストで作品を選んでコレクションをされている方です。後者のコレクションは、その内容も展示の仕方もとても個性的で素晴らしいです。もちろんこれらの世界的なコレクターになると、アート購入のアドバイザーがいる方も多いと思います。

山田:ライフスタイルへのアートの取り込み方で素敵だった事例はありますか?

和多利:やはり、美術館の展示ではできない、プライベートな展示方法ですね。バスキアのドローイングが無造作に置かれたり、キッチンに重要な現代アートの作品が展示されていることもありました。

特に驚いたのは、ワタリウム美術館への来館をきっかけに知り合いになった、ブラジルの通信会社のオーナーのご自宅。高いリビングの天井からロバート・ゴーバー(イギリスを代表する彫刻家)の等身大の人物彫刻の足が複数飛び出していました。数年に一度、作家本人が家に来て、配置替えを手伝っていくそうです。美術館の展示など及びもつかない贅沢で、個性的な空間を作り出していました。家族と非常に限られたお客のためだけの展示ですね。

山田:彼らがアートを飾るのは、ご自身が楽しむため、あるいはゲストに見せるため、どちらが多いですか?

和多利:いろいろなコレクターのタイプがあります。僕は招待を受けて少人数で伺うことがほとんどで、アートフェアや美術館のオープニングの二次会や三次会でといったケースが多いです。見せるための空間として整えられていて、その空間で食べ物やドリンクなどが上手にサーブされることもあります。
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文=山田理絵

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