オクトーバーのビジネスは、ロシアがウクライナへの侵攻を始めた2月24日以降、どれほど劇的な変化を強いられただろうか──。
3月初め、オクトーバーは母国ウクライナを離れるという難しい決断を下した。首都キエフの自宅で、ロシアが軍事侵攻を開始したことを知ってから24時間のうちに、攻撃から逃れるためにどうすべきか、考えを巡らせたという。
まずは友人たちと車でキエフ郊外に移動したオクトーバーは、森の中にある一軒家で1週間を過ごした後、パリに向かうことを決めた。
「車でモルドバとの国境まで行き、そこからルーマニアを経由してパリまで来ました」と彼女は話す。
「やっと安心できたのは、ブカレストに到着してからです。友人や同僚、家族とは毎朝、必ず連絡を取っています。みんな無事に、朝を迎えただろうかと……」
オクトーバーは当分、パリを拠点に活動するつもりだ。ウクライナでファッション関連の仕事に就いていた仲間たちを、パリから支援する考えだという。
国内の「業界」を守りたい
2014年に若手デザイナーの育成と支援を目的とする「LVMHプライズ」にノミネートされ、セミファイナリストに選出されたオクトーバーはこれまで、既製服の生産においては歴史ある街の故郷キエフ以外で、事業を営むことを考えたことがなかった。
才能あるファッションデザイナーが数多く集まるキエフだが、なかでもオクトーバーは、最も大きな成功を収めた一人だ。顧客には、モーダ・オペランディ(Moda Operandi)やファーフェッチ(Farfetch)、エッセンス(SSENSE)など、高級ファッションを専門に扱う各国のECサイト運営会社も名前を並べる。
ロシアの侵攻開始後の3月3日、LVMHはオクトーバーを含め、過去のLVMHプライズでセミファイナリストまで選考に残ったウクライナ人デザイナー3人の事業の継続に必要な資金を提供し、運営を支援することを明らかにした。
ただ、LVMHのサポートに感謝する一方、オクトーバーにとっては、そうした経済面での支援は、“大海の一滴”だという。世界のファッション業界が、ロシアのウクライナ侵攻に関してより大規模なイニシアチブを取ろうとしないことに、彼女は落胆している。
「SNSにウクライナの国旗を投稿するだけでは、十分ではありません。この新たな現実の中で、仕事を続け、生活を築きたいと願うウクライナ人の同僚たち、業界関係者たちのことを考えてもらいたいのです」