サンセバスチャンで学んだシェフが「究極の万人受け料理」を目指す理由

VISONにあるレストラン「イスルン」で中武亮シェフが提供する料理

三重県多気町、東京ドーム約24個分という広大な敷地に、総工費220億円をかけたスタイリッシュな建物が並ぶ。およそ日本離れしたこの場所は、「日本のサンセバスチャン」を目指して作られた。

多気町は大阪や名古屋からの伊勢神宮参りのルート上に位置する。その中でも車でのアクセスの良い場所柄なのを生かし、食と癒し、知をテーマにした複合商業リゾート施設を生み出した。それが、VISON(ヴィソン、美村)だ。

美食の街として知られるスペイン・サンセバスチャンは、2018年には「世界のベストレストラン50」のイベント開催地ともなり、筆者も訪れ、本場のバルでピンチョスなども楽しんだ

師の教えを形に


その街が“美食の街”に向けて舵を切っていた頃を現地で見てきた日本人シェフがいる。1974年から77年にかけてバスクの食文化の立役者でもある師、ルイス・イリサール氏のもとで学んだ、「レストランバスク」のオーナーシェフで、「世界料理学会 in Hakodate」の主催者でもある、深谷宏治氏だ。


深谷宏治シェフ

もともとは機械工学を学んでいたが、ベトナム戦争などが起きる中で、社会貢献の方法を模索し、料理の道にたどり着いた。

1981年に函館に創業した「レストランバスク」では、バスク人が食べて本物だと感じてもらえるようなバスク料理を、をテーマに、パンや生ハムなども1から手作りしている。函館の中心街を活性化するために「バル街」というイベントを立ち上げるなど、食を通した地域づくりを実践してきた。

そんな深谷氏のもとで学んだシェフが、今、地域再生のために動き出している。VISON内にできたバル街「サンセバスチャン通り」など、飲食店5店を含む食の統括を行っている、中武亮シェフだ。

広島県出身の中武氏は、大学で中途半端に時間を過ごすよりも、と調理師専門学校に入り、ゲスト講師として学校を訪れた深谷氏に出会った。ちょうど深谷氏がバル街を立ち上げた時期に5年間修業を重ねた後、深谷シェフの勧めもあって、スペイン政府の招聘を受け、奨学生としてスペインへ。サンセバスチャンのミシュラン三つ星店「アケラレ」で2年半修行してきた。

この度、バスクを彷彿とさせる多気の自然に魅了され、VISON全体の食だけでなく、IZURUN(イスルン)と名付けた店で、地元食材を使いつつ、自らのスタイルを表現する。
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文・写真=仲山今日子

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