「人の縁」で地方創生。三重のスーパーシティ特区にできたVISONとは

東京ドーム24個分の土地に、さまざまな施設が集まった商業施設「ヴィソン」

大事なことなのに、使いまわされて食傷気味になる言葉がある。SDGsやLGBT、サステナビリティ……。地方創生もその一つだ。自分の住む町の議員投票に参加しない人が多いなか、どうしてゆかりのない土地に関心が持てるのだろうか。体のいい言葉でなく、実体を知りたいのが忙しいビジネスパーソンの本音ではないだろうか。

段階的に開業していた日本最大級の商業施設が三重県多気町に完成した。三重県のほぼ中央に位置する多気町は、豊かな自然で周囲を囲まれている。それでいて、熊野古道や伊勢神宮といった観光地にもアクセスが良い。東京ドーム24個分のスケールで登場したのが今回のヴィソンだ。

「日本最大級の商業施設」。これまでも幾度となく聞いたフレーズであり、地方に箱モノをつくって安心を得る。過去の事例が頭によぎった。地方創生には、「土地・食」「体験」「人」が必要ならば、土地においては申し分のない広さを持ち合わせているのだろう。

しかし、このヴィソン、踏み込んで調べてみると様子が違った。

施設には多くの木材が使用されているという。式年遷宮で伊勢神宮が新しい社殿を建てるように、ヴィソンでも20年ごとの修繕が行われるためだ。いっときの派手な演出ではなく、40年後、60年後、120年後と続く施設であることが示されている。

そして、スーパーシティ特区としての役割を担うという。また、「ミナ ペルホネン」「D&DEPARTMENT」「くるみの木」といった、個性ある暮らしに寄り添うアイテムを扱うショップが集うと聞いて驚いた。ヴィソンには何があるか、実際に訪れてみた。

「日帰り利用」という限界を超えたい


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日本の多くの地域にとって、「地方創生」は無視できないキーワードだ。しかしながら、言葉だけが一人歩きして、一向に進まない、またはうまく行かない地域も少なくない。

ここ、多気町も、豊かな自然を有しながらも若年層の都市部への流出が課題となっていた。また、熊野古道や伊勢神宮に通ずる町ではあるものの、日帰り利用が多かったという。

この課題に挑むべく、多気町・久保行央町長が、「アクアイグニス」代表取締役立花哲也氏に相談を持ちかけたのが2013年。立花氏は、癒しと食をテーマにした複合温泉リゾート施設(アクアイグニス)を三重県菰野町に開業し、注目を集めていた。

「薬草と地元の農産物を使った施設をつくって欲しい」、久保町長の言葉からプロジェクトが動き出し、アクアイグニス(東京・中央)とイオンタウン(千葉市)、不動産ファンド運用のファーストブラザーズ、ロート製薬の4社の合同会社により、VISONが誕生したという。

町長の希望した薬草は、三重大学とロート製薬が薬草風呂を共同開発することで形になった。温浴施設「本草(ほんぞう)エリア」だ。VISON独自に調合した薬草湯が5日ごとに変わる「七十二候の湯」と、古来より親しまれてきたヨモギや、三重県の自然の恵みがつまった温州みかんの皮、ビワの葉などを使用した露天風呂「薬草の湯」、そして「鉱石の湯」が、訪れた人を癒す。

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宿泊機能も充実している。プライベートヴィラおよびホテルタイプの客室を持つ「HOTEL VISON(ホテルヴィソン)」と日本的な風流が感じられる「旅籠ヴィソン」が客人を待っている。プライベートヴィラは全6棟あり、1棟ごとに季節を表す名称を冠し、露天風呂と外居間から「現代的な和」を感じ取ることができる。

全棟から望める雄大な山の緑は圧巻だ。全155室を用意したホテルタイプの一部客室では、客室内と同面積のテラスを設けられている。こちらもまた、大自然を感じながら露天風呂や食事が堪能できる。4棟からなる全40室の「旅籠ヴィソン」でも、1棟ごとに異なるデザイナーが客室を演出しているため、選ぶところから楽しめるだろう。

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文=上沼祐樹 編集=石井節子

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