ビジネス

2022.03.11

日本の宇宙スタートアップが、世界最速で100億円を調達できた理由

CEOの新井元行(提供=Synspective)


もともと小型SAR衛星の開発は、15年に立ち上がった内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のもとで進んでいた。防災用途で作られており、複数の大学が参加し、慶應義塾大学教授の白坂成功がプログラム・マネージャーを務めていた。

「ImPACT」内では研究成果をどう社会実装するかが議論されるなか、時を同じくして新井は、当時のクライアントから白坂教授を紹介された。

持続可能な社会を目指していた新井にとって「防災」は自身の思いと繋がり、白坂とともにシンスペクティブを立ち上げた。

約1年半で109億円を調達できたのはなぜか


創業にあたり、資金を獲得するため投資家をまわった。しかしVCからは「衛星データの使いどころが読めない」「ファイナンスリスクが大きすぎる」など、あまり良い回答は得られなかったという。

そこで新井は、先行する宇宙系スタートアップ企業の先輩経営者に相談。そこで紹介されたのはジャフコだった。担当者は宇宙工学を学んできた投資家で宇宙産業に深い理解があり、シンスペクティブの成熟した小型SAR衛星技術を評価した。

2018年にシードとして22億円を獲得すると、2019年7月には清水建設など企業からも出資を受け、約87億円を調達した。

創業から1年5か月で累計109億円を調達できた背景の一つは時勢だ。

2018年1月には、シンスペクティブ同様、小型SAR衛星を用いた事業を展開するフィンランドの宇宙スタートアップ「ICEYE(アイサイ)」が初めて衛星を打ち上げた。

また同年9月には、ZOZO創業者の前澤友作がスペースXのロケットで月を周回する宇宙旅行計画を発表し、話題を呼んだ。

2019年には、インターステラテクノロジズが、日本の民間企業として初めてロケットを宇宙空間へ到達させた。また日本で初めて、宇宙スタートアップに特化したベンチャーキャピタル「エースタート」が誕生。シンスペクティブにも投資している。

ここ数年で宇宙ビジネスに注目が集まり始めたことは言うまでもない。

そのなかでも、大きな出資を受けるために、次のようなことをアピールした。

「グーグルやアマゾンはインターネット上のデータプラットフォーマーになりましたが、地球全体の物理データを集めている会社はまだありません。

レーダーによる地球のデータがあれば、噴火や地震が起こった際に、地形やインフラの変動などを24時間追い続けられます。また企業の事業活動が自然環境にどう影響を与えるのか定量的に測定できるようになる。

こうしたことが、SDGsなどが重要視されつつあるなか今後10年で必要になってくるのは目に見えていて、地球上のデータを使ったビジネスは数兆円のマーケットになるとの予測もあります。そうした将来性が投資家に刺さったのでしょう」

初期に大型の調達ができたことは、将来のリスク回避の点でも成功だったと新井は語る。
次ページ > 優秀な人材を確保し、離職者はゼロ

文=島田祥輔 取材・編集=露原直人

タグ:

連載

大学発ディープテック 新時代

ForbesBrandVoice

人気記事