ビジネス

2022.03.14

モノを変え、意識を変える インクルーシブ・ブランド IKOUの挑戦

Halu代表取締役 松本友理


どんな家族の時間にも寄り添うために、日常に馴染むデザインにこだわった。障がい児向けのイスというと機能を優先しそうになるが、リサーチで聞こえてきた「完璧に姿勢を保持するよりも、気軽に持ち運べること。持ち運びたくなるデザイン」という声を形にした。

外観も、「徹底的にユーザー起点」で考えたアウトプットだ。子ども用のものはポップな色柄なものが多いが、それは必ずしも親が持ちたいものではない。そこで「Inside for children. Outside for parents.」を一つの指標とし、機能は子どもが安心して座れるもの、外観は持ち運ぶ大人のニーズに応えるものとした。

手探りのものづくり


100ほどのデザイン案から何十もを形にし、ユーザーテストを行い、改善する。プロトタイピングを繰り返し、およそ1年でデザインが完成。Haluを起業し、製品化に向けて動き出す。

トヨタでは商品企画をしていたが、ものづくりのプロセスは知らなかった。手探りで進める中、「一緒に考えながら走ってくれるパートナーが必要だ」と考え、繋がりのあった東レカーボンマジックの奥 明栄社長に相談。その紹介により、試作から量産まで一気通貫して組める鳥越樹脂工業と出会う。

まずはデザインをそのまま形にした試作品を作って、設計上の問題を洗い出す。並行して、ユーザーテストも行った。「例えば段ボールに500mlのペットボトルを入れ、1本ずつ増やしていくと、7〜8本目ぐらいで皆さん『重たい』となる。重さは3kgを目標にしました」


完成したIKOUポータブルチェア(収納時)。重さは3.2kg、34cm×27cm×16cmというコンパクトさだ (c)IKOU

設定したい販売価格とコストが合わないのも課題だった。一般的な福祉機器は、全国各地の工房が受注生産をしているため、補助金を使わないと手の届かない価格で、届くまでに時間がかかる。障がいの有無関係なく多くのユーザーに届けるには、手頃な価格とオンライン販売は譲れない条件だった。

試行錯誤の連続だったが、松本は「ものをつくる過程が楽しかった」と振り返る。

「デザインを決めるときは、段ボールやテープでプロトタイプを作り、テストした翌日には改良版を試すというスピード感。クルマはそう簡単にはできないので(笑)。製品化では、金型を作り、樹脂のパーツを成形して組み立てるのですが、最初からピタッといかず、ちょっとずつ削りながら調整したりして。細部にいかにこだわれるかが、全体のクオリティを左右すると知りました」
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編集=鈴木奈央 人物写真=山田大輔

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