ビジネス

2022.03.14

モノを変え、意識を変える インクルーシブ・ブランド IKOUの挑戦

Halu代表取締役 松本友理

障がい者や障がい児を前にしたとき、あるいは“障がい”という言葉に、どんなイメージを抱くだろうか。多くの人は、「自分とは違う存在」「手を差し伸べるべき相手」と考えるのではないだろうか?

それはおそらく、子どもの頃にそう教わってきているからだ。あるいは、社会に「障がい者を保護・支援」する制度や設備が整えられているからかもしれない。しかし、それらによって「普通」と「それ以外」という隔たりが可視化され、障がいに向き合う家族を社会から遠のけているのも事実だ。

トヨタで商品企画を担当していた松本友理は2016年12月、生後8カ月の息子に「脳性まひ」の診断を受けた。その後、2年にわたり、ケアとリハビリに専念。物理的にも、心理的にも分断されることに違和感を感じ、「社会のあり方を変えたい」と動き出した。

2020年4月に、「一部の特別な人がするものだと思っていた」という起業をし、息子の名前にちなんだ「Halu」を設立。障がい児という“エクスクルーシブ”な視点から、“インクルーシブ”なブランド「IKOU(イコウ)」を生み出した。

そして2022年4月に、ブランド初のプロダクトである「IKOU ポータブルチェア」が本格ローンチする。

IKOU ポータブルチェア
IKOU ポータブルチェア 税込4万9500円(c)IKOU

一生、一般社会に交われないのか?


「私自身、あまり障がいのある方と関わる機会がなかった」という松本は、息子の診断を受け、「自分は違う世界にきてしまったのか」と思ったという。

実際、育児を通じて、障がい児・健常児があらゆる面で分離されていることに気づく。モノも場所もサービスも、“専用”が用意されていることはありがたい反面、「それしかない」と選択肢を狭め、健常児を育てるファミリーと接することも、外出する機会も減っていった。

「このままいけば小学校から特別支援学校で、高校を卒業したら、福祉作業所。息子は一般社会に交われないのか?」

そんな考えが頭の中をめぐり、「どうにかしたい」というのが始まりだった。

「もっと、家族の時間を豊かにできるようなものを作れないか」。その思いを、デザイン&コンサルティングファーム「IDEO Tokyo」の共同代表を務める元トヨタの先輩に相談。2019年3月にデザイナーにプレゼンする機会を得た。

ちょうどその頃、IDEOは「underdesigned」というプロボノプロジェクトを行っていた。通常はクライアントワークを行うプロ集団だが、これは余暇の時間とデザインの力を世の中のために使おうというもので、松本の企画は採用される。このタイミングで松本はトヨタを退社。同年8月から、プロジェクトの実現に邁進する。
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編集=鈴木奈央 人物写真=山田大輔

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