経済・社会

2022.03.08 08:30

祖国を見つめる、ニューヨーク在住ウクライナ系市民たちのいま


ロシアン・ティールームは閑古鳥


西の14丁目沿いに「K.G.B.スパイ博物館」がある。旧ソ連のさまざまなスパイ活動に使われたカメラや道具などが展示されていて、私も一度行ったことがあるが、入館するときには旧ソ連の軍服を着た係員に迎え入れられ、少し緊張感が漂う。さすがに現在は臨時休業となっている。また57丁目のロシアン・ティールームも、閑古鳥が鳴いているそうだ。


(Photo by Alexi Rosenfeld/Getty Images)

1989年のベルリンの壁が崩壊した夜も、テレビで伝えられるその様子をずっと追いながら頭が冴えて、眠りに就けなかった。その後32年経って、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日の夜も、やはり寝付けなかった。「あの時といまがこのように呼応するのか」という思いもよぎった。

まだ東西冷戦の最中、まだ東西に分割されていた頃の1983年冬に、東ドイツの中心にあった東ベルリンを訪れたことがある。昼間でも、人の気配や活気が感じられず、寒々とした街の中を古ぼけたトラバント(東ドイツ製の車)が走る社会主義国の空気を感じて、これでは経済は回らず、人々の意欲もなく、国は持たないと感じた。

2020年にニューヨークがコロナ禍でロックダウンになったとき、車も走らず、人も歩いていない街の光景を見たときに、かつての東ベルリンの光景が蘇った。

ウクライナの国境からハンガリーを挟んで550キロメートル(東京―大阪間ほど)しか離れていないクロアチアでレストランを開いている友人は、最近、突然ガス代が3倍に跳ね上がり、コストが増して経営がキツいと漏らす。

旧東側にあった東欧の国々にはいまでもロシアの銀行が残っているが、EUがロシアをSWIFTから排除したことで最大手のスベルバンクがヨーロッパ市場からの撤退を決めた。それにともない、クロアチアでも取り付け騒ぎが起こっていて、銀行には警察が張り付き、暴動に発展しないようにしているそうだ。

米国内のオンライン上でも、とにかくロシア系の銀行から預金を移そうとアクセスが殺到し、銀行のサイトがダウン寸前でつながりにくくなっている。10万ドルまでしか保証されないため、それ以上の預金を持っている富裕層は、連日、とにかく親戚や知人の口座でもいいので、一時的にロシア系でない銀行に資金を移動させるのに躍起になっている。

一方、ナイキ、ディズニー、アップル、ウーバーなどのアメリカの会社は、自社業績を犠牲にしてでも企業としての主張と価値を明確にするために、ロシアでの販売停止やサービス停止などに踏み切った。

オミクロン株が落ち着きを見せてきたニューヨークでは、マスクをしない人も増えてきている。コロナ禍は終息に向かっているように思えるが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ニューヨークの街の空気感はまたまた緊迫したものになっている。

連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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文=高橋愛一郎

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