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2022.03.07

不眠障害治療アプリのサスメド 分岐点は「医療への一本化」

サスメドCEO 上野太郎(撮影=曽川拓哉)


当時のサスメドはオフィスもなかったため、上野が研究者・医師としての勤務を終えてからファミレスに集合して、2人で事業計画や開発体制を練ったという。

そして上野は、2016年2月に組織を株式会社に変更。植波との再会から1年以上を経た同年12月に、最初の資金調達として7000万円の投資を受けた。

サスメドの創業から3年という期間においては、さらに2つの飛躍のポイントがあった。

課題のない領域にニーズは生まれにくい


まず、上野が「サスメドのやるべきことなのか」と疑念をいだいていた「ヘルスケア」からの撤退を決めたのだ。それは医療分野に一本化するという意思決定でもあった。

「アメリカなどではここ数年、デジタルとヘルスケアを掛け合わせたプロダクトが急速に増えていましたが、成功していないケースが多い。継続率の問題もありますが、そもそも顧客がペイン(課題)を感じてない、つまり元気で働いている人に、いまより健康になるものを提供しても、ニーズがほとんどないということです。

サスメドには医療にバックグラウンドがある人材が集まっている。ならば不眠障害という明確にペインが顕在化している領域で勝負しようと思いましたし、ビジョンに掲げる「持続可能な医療を実現する」ため、将来の医療に貢献する事業に注力すべきと考えました」(上野)

サスメド

当然ながら、「医療」では薬機法というハードルがある。植波も、薬事に係るアドバイザーを紹介しながら、薬機法関連の戦略を詰めていった。

そして、もう1つの飛躍のポイントは上野の「隠れ実験」だった。

2016年頃から、上野は治療用アプリの開発とは別に、ブロックチェーンを用いた治験効率化の研究開発に着手していた。

治験のデータは信頼性の確保が規制上求められ、それまで人の手によって収集・確認されていたため、膨大な時間とコストがかかっていた。それをブロックチェーンでデータを管理することで労働集約的な業務を改善し、治験の効率化につなげるというプロジェクトだったが、実は外部には伝えずに内密に推し進めていたのだ。

「研究者にはよくあることで、面白いと思ったことを外部に内緒で隠れ実験するんです」と上野は明かす。

後に特許取得や論文発表、中央省庁による承認を受けるなど、サスメドの重要な競争力となるのだが、「何をやっているの?」というのが、植波の最初の印象だったという。

「面白いなとは思いましたが『極力本業に集中してほしい』と上野さんには言った気がします(笑)」

サスメド

「ただその後は売上も立ち、研究者としての遊び心やパッションによって、最先端の技術に興味を持つ強いエンジニアや研究者がサスメドに集まってくる原動力にもなった。

本業からは遠いと感じていたものの、現在は治療用アプリを生み出すプラットフォームになっていますし、最近のホットワードである『ウェブ3.0』の先駆けと言えるかもしれません」

アプリと治験効率化ブロックチェーンの両軸の開発を進め、2018年にはシリーズBとして7億2000万円を、2020年にはシリーズCとして15億円を調達。

ヘルスケアから手を引く決断は、まさに「選択と集中」とも言えるが、同時に本業にとっては「飛び地」となるブロックチェーン技術の研究開発を行うことによっても、事業は拡大していった。
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文=露原直人 撮影=曽川拓哉

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