注目すべきは、NIHがその原因として豊かさを求めた人々の経済活動、特に最近のグローバリズムや金融資本主義による国境を越えた人やモノの移動、自然破壊、貧富の差の拡大などを挙げたこと。
この一連から考えられることは、これらは自然災害や地政学的リスクの増大の原因でもあるわけで、今までの経済活動が実は人類の存続を脅かしているという現実を今回のパンデミックで改めて突き付けられることになった。
「であれば従来の経済と感染症対策の両立などあり得ないでしょう。13世紀の黒死病の後、被害が最も大きかったイタリアで、ルネサンス運動が起こったように、我々は今社会の在り方そのものを見直す現代のルネサンスを求められているのです」(北原)
自然界には地表にも水中にも1㏄あたり数百万ともいわれる多数のウィルスが存在していて、それがあちこち渡り歩いてホストとの間で遺伝情報をやり取りし、生態系を維持したり自身や生物の進化を引き起こす役割を担っている。
「コロナウイルスもそこら中に転がっており、今回の新型コロナ、特にオミクロン株の出現はその一部が容易に人間に感染する能力を獲得しただけのことであって、これを一掃することなどできるはずがない」と北原理事長は考える。
「それでも我々はこの一年半、年間4000件の救急車を受け入れながら、スタッフが正しい知識を持ち、更には院内には絶対に新型コロナを持ち込まないという強い決意を抱いてくれていたお陰で、一例の患者感染も出さずに済みました。この経験から、経済活動のすべてを諦めずとも、周囲に配慮さえすれば大幅に感染リスクを低減することができると考えています。つまり、人の『心』に重きを置きつつ、ウイルスや様々な災厄に対して高い防御力を持つ社会の建設に向け、動き出しています」
あるべき社会と医療のヒント「ブルーゾーン」
では、医療はどうあるべきかについて考えた時にヒントとなるのが「ブルーゾーン」だ。ブルーゾーンとは、90歳を越えても元気に活躍している人の割合が世界平均に比べて高い地域のこと。イタリアのサルディーニャ島、ギリシャのイカリア島、コスタリカのニコヤ半島、そして世界自然遺産に認定された沖縄本島山原(やんばる)の大宜味村などがこれにあたるという。
「ブルーゾーンに住む人の共通点として医療を受ける機会が少ないこと、住民の絆が保たれ社会的ストレスが少ないこと、そして何を食べるかよりも総じて摂取エネルギー量が少ないことなどが挙げられます。手短に言えば、『食べ過ぎず、病院に行かず、ストレスがなければ人は元気でいられる』ということです。そうであればマクロの視点から考えたとき、病院はいったいどこに自らの存在意義を見出せるのでしょう」
コロナ禍には、病院の必要性を疑わせる興味深い事実が色々明らかになった。2020年、日本では、年間総医療費が概算値で3.2%も下がったにもかかわらず超過死亡はマイナスを記録。
「これは、本来病院に行かなくても、あるいは行かない方がよかった患者が大勢いたことを意味しています。この不都合な真実について、日本では報道も検証もされていませんが、実はアメリカでも同様の現象が起きており、検証の結果『本当に来院が必要な患者は全受診者の5%に過ぎない』と言われ始めています」