2012年以来の小麦先物の値上がり
エネルギーのみならず、穀物価格の先高観も強まっている。ロシアの侵攻は商品(コモディティ)相場全体をも大きく揺り動かす。
ロシア、ウクライナはともに小麦、トウモロコシなどの主要生産国。ウクライナは「欧州の穀倉地帯」などと称されている。小麦に関しては、両国で世界全体の輸出の約3割を占める。「厳しい状況が長期化すると、これから作付けの時期に入る(春まき)小麦の収穫減につながる懸念もある」と前出の吉田コモディティアナリストは予測する。
さらにロシアはウクライナ東部のアゾフ海での商業船舶の航行を停止した模様だ。アゾフ海は黒海北部の内海。ウクライナのマリウポリ、ベルジャンシクなどの港湾都市がアゾフ海に面し、穀物や鉄鋼などの輸送には欠かせない拠点となっている。
フランスのメディアは「ウクライナの輸出品の2割が (アゾフ海)の2つの港を経由している」という専門家の見方を紹介。ウクライナ最大の港は黒海に面する南部のオデッサだが、それでもアゾフ海での輸送が滞れば、供給不安は一段と強まる。
米シカゴ商品取引所(CBOT)の小麦先物の価格は、こうした見方を反映して値上がり。取引で最も出来高が多い中心限月の5月物は、戦端が開かれた24日には1ブッシェル=8.8475ドルと2012年以来の水準へとハネ上がった。ロシアに生産を依存するアルミや希少金属のパラジウムなどにもウクライナ危機の影響は広がっている。
「問題なのは経済制裁が意味をなさなくなったこと」と語るのは、マーケットリスクアドバイザリーの新村直弘代表だ。「制裁はウクライナ侵攻を阻止することが目的だったはず」だと新村代表はその理由を語る。
ロシア軍はウクライナ東部だけでなく首都のキエフにもミサイル攻撃などを仕掛けている。これでは、EUや米国などが厳しい制裁をロシアに科しても、侵攻がますますエスカレートする可能性すら否定できない。
ロシアの最終的な狙いは同国のレッドライン(超えてはならない一線)とされるウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟断念や非武装中立を取り付けることなのか。それとも、ウクライナのゼレンスキー大統領を引きずり降ろし、親ロシア派のトップへのすげ替えも求めるのか。
先行きをめぐる不透明感が払しょくされるまで、コモディティが下落に転じるシナリオは想定し難い。原油、穀物、金属などの値上がりがコスト高となって企業に重くのしかかり、家計をも圧迫する状況が当面続きそうだ。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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