調理において大切にしていることの一つは、素材を無駄なく使いきるということだ。例えば、写真のあわびの一皿はそのいい例だ。肝はもとより、ひもやひだの部分まで、すべてを使って三つ星の一皿に仕上げている。
アワビの一皿
肉でも魚でも、昔は、真ん中の一番いい部分しか使わなかったが、均等に端まで使う。また、骨やスジ、不可食部位の硬い肉などは、フォンやソースをとるのにすべて用いる。それはサステナブルという以前に、一料理人として、一人間として、あたりまえのことだと思っているという。ラグジュアリーとサステナブルという、ややもすると、真逆のベクトルを向いた両者が同じ方向を向こうとしているのが感じられるではないか。
自然観を変えた乳酸菌との出会い
そしてもう一つ、長年かけて温めてきたプロジェクトである「ロオジエ オリジナル ティー」が完成した。この2月1日より、来館したゲストだけに販売する限定品だ。
女性のエンパワーメント活動を続けている非営利団体「ファム・デュ・モンド財団」に、ロオジエとコラボレーションしているフランスの紅茶ブランドが売上の一部を寄付することで、スリランカの紅茶製造に関わる女性支援に役立てるという社会貢献事業だ。
スリランカでは多くの女性が紅茶製造業に携わっているが、その社会的地位は低く、教育を受けられない人もまだまだ多い。そんな女性たちに、教育を受けさせ、やりがいと、賃金の高いポストにつけるように応援するという。もちろん、シェニョン氏自身が紅茶を作れるわけではないので、紅茶そのものは、「ジャンナッツ」という、ファム・デュ・モンド財団の傘下にあるスリランカの紅茶製造をしているフランスの会社とタッグを組んでいる。
実はこのプロジェクトのきっかけとなったのが、乳酸菌の研究者であるベジット・イデアス博士との出会いにあった。博士の、おいしいものを作る人(例えばすし職人など)の手には特別の乳酸菌が宿るという見解から、シェニョン氏の掌の乳酸菌を調べたことが始まりだった。
その後、意気投合した二人は、仕事としてもパートナーシップを組むことになるが、シェニョン氏の自然観は博士から大きな影響を受けることになる。