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2022.02.19

プロゲーマー育成だけではない 日本初「eスポーツ専門高校」が挑む日本教育の課題

昨年末、さいたまスーパーアリーナでeスポーツの世界大会が行われた。その賞金総額は2億8000万円で、優勝者の獲得賞金は1億5000万円。これは軽量級ボクシング世界戦と同じレベルだ。

億超えのプレイヤーも生み出されるほど市場が盛り上がるeスポーツだが、この4月、東京・渋谷に日本で初めてeスポーツ専門の高校「eスポーツ高等学院」が開校する。

独自のeスポーツICTプログラムで、プロゲーマーはもちろん、eスポーツ業界に関わる職業について学ぶ環境が整う。文部科学省認可の学校で、高校教育を3年間受けながら大学進学を目指すこともできる。

試験はなく、定員は50人。2月8日には、元サッカー日本代表、北澤豪氏が名誉学院長に就任することも発表された。

これだけを聞くと、算盤勘定が得意な企業が、今流行りのeスポーツビジネスに手をつけたのだな……と勘違いをしそうだが、実態はまったく異なる。

いったい本学の狙いは何か。実際に学校へ足を運んだ。


その場所は渋谷公園通りに位置する「シブヤeスタジアム」。通り沿いのしゃれたビルに入り、エレベーターを降りると、グリーンを基調としたエントランスがまばゆいばかりに輝く。サイエンス・フィクションかと錯覚するほどだ。

中には、7メートルのメインビジョンや40台のハイスペックゲーミングPCなど最先端の設備が用意されている。

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天井にもロゴが

学校の運用母体は、ディー・エヌ・ケー(以下、DNK)。そこにNTTe-Sportsと東京ヴェルディeスポーツが参画する。DNKはもともと通信制高校の中央高等学院を運営し、東京をはじめ横浜、千葉、さいたま、名古屋で展開している。

斉藤暁学院長は、同様にDNKが運営する通信制学校、中央国際高校の専務理事でもある。開校の目的について話を伺うとその冒頭ですぐに腹落ちした。

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eスポーツ高等学院 斉藤暁学院長

「ゲーム依存は社会的にかなり深刻で、引きこもりになる大きな理由でもあります。こうした子どもたちにどう対応したらいいか。それが本校の出発点でした」

もともと中央国際高校は「不登校問題」に取り組む学校。不登校学生の多くは、イジメなどが原因で登校しなくなり、家に引きこもり、ゲーム依存症となる傾向にある。

少し古いが内閣府の2012年の統計によると15歳から19歳の引きこもり人口は約9万人。それが20歳から24歳には約17万人へと増え、34歳までをまとめると約63万人にまで膨れ上がる。

ゆるやかな上昇傾向にあり、また10年前の統計である点を振り返ると、現在はさらに増加していると推察される。

少子化、人口減少が著しく進む日本において、これだけの不労人口を抱えるという点はそれだけで深刻だ。そして、その原因の一助となっているゲーム依存症は、「日本のみならず先進国における深刻な問題」と斉藤学院長は語る。
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文・撮影=松永裕司 編集=露原直人

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