声優・花江夏樹、大事なときほど「つくらずに」勝負する

花江夏樹(撮影=小田駿一)


ただ、僕は当時から「夢を叶えるんだ!」「自分頑張ってます!」と意気込む感じでもなかったんですよね。ただひたすら「楽しい」からやっていた。そのスタンスは声優になってからもあまり変わっていなくて、さまざまな声の表現にチャレンジしたり、「もっと面白いことをしてみよう」「今までやったことのないようなことをやってみよう」という思いで、目の前の仕事に取り組むことを続けています。
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お芝居や役作りに、いい悪いとか正解や不正解はないと思っています。それは個人の感じ方なので。ただ僕は、自分が正解だと思うことを楽しくやってきただけ。良い作品や魅力的なキャラクターに巡り合うことができたのは、「運」の要素も大きいですね。

大事なときほど「つくらずに」勝負する


自分の声優としての強みは、「声をつくらない」こと。自然なお芝居を大事にしたいと考えているので、オーディションも全部“地声”で受けることにしています。

それは、地声がいちばん感情の表現の幅が広く、キャラクターを最も輝かせられるトーンだと思うから。そのほうが仮に合格して実際に演じることになったときもやりやすいですし、落ちた場合も本当にそのキャラクターにあっている地声の人が選ばれたほうが、作品がより魅力的になることが多いです。
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今回の映画「グッバイ、ドン・グリーズ!」でも、作品の雰囲気にリアリティがあるので、つくり込みすぎず会話するように心掛けました。年齢が若くてしゃべるテンポも早いから、そういった所で気持ちよさや自然体な部分を出せたらいいなと。

花江夏樹

地声で演じることを意識し始めたのは、デビュー作から。共演した少し年上の役者さんたちが、すごく自然なトーンでお芝居をされていたことに強い感銘を受けたんです。そのときまで、声優は声優らしいつくった声で、はきはきと話すものだと思い込んでいたのですが、そのイメージが覆った。転機でしたね。

どんな声で演じるかは、もちろん声優さんそれぞれですが、僕は、少なくとも若いうちは、絶対に声をつくらないほうがいいんじゃないかな、というタイプです。いわゆる「アニメ声」で演じることに憧れる人も多いと思うんですけど、実際はとても高い技術が必要なこと。そこは先輩たちが得意としているところなので、若手が真っ向からいったら敵わないのは当たり前ですよね。

僕は声優になった当初、若くて純粋で素朴な、まだ何にも染まっていない、いまの自分の良さを出していかないと、この世界ではやっていけないと学びました。いまはあの頃に比べて演じるキャラクターのテイストが変わってきてはいますが、その感覚はずっと大事にしています。
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構成=松崎美和子、島田早紀 写真=小田駿一

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