ビジネス

2022.02.16 08:00

地域住民との「対話の場」に。東原会長が「日立オリジンパーク」にかける思い

日立製作所執行役 会長 兼 CEOの東原敏昭


「製品起点」から「社会価値起点」に


こうした考えの背景には、日立の「視点」の変化がある。
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同社は、工場を中心に良い物作りをする「製品起点」から始まり、顧客データを活用しながら顧客の課題を解決する「お客さま起点」へと、ビジネスモデルを変化させてきた。そして近年は、環境問題や新型コロナウイルスなどの社会課題が色濃くなるなかで、顧客の課題解決だけでなく、社会全体に目を向ける「社会価値起点」に変化してきたのだという。

「こうした時代の中で、ひとつの企業の力だけで社会価値を向上させることは到底無理なことだと気が付きました。実現のためには、ステークホルダーや自治体、市民の方々を巻き込むことが必須です」

そのため、日立オリジンパークも地域にひらけた施設であることにこだわった。「小平記念館」にはイベントなどに活用可能なホールも併設されていて、小中学生の校外活動やセミナーなどでも使用することができる。
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失われたベンチャースピリットを取り戻せ


さらに、この施設を通して、グローバルに約37万人抱える従業員に“創業精神”を受け継いでいきたいという思いもある。

「創業当時は、小平創業社長を中心とする数名規模のベンチャー企業でした。『和・誠・開拓者精神』にも示されている通り、まさに“ベンチャースピリット”があったんです」。

しかし、他の大企業と同じく、規模が拡大するにつれ、それが失われていないかと危惧していると東原は言う。

特に、グローバル企業として成長する中で海外拠点が増え、多様化が進んだ日立。2022年2月現在、海外会社従業員は過半数を超える21万人にまで増加した。言語や文化が違う彼らにこそ、創業地に来てもらい、創業者の考え方や理念を体感してもらうことが、今後の成長のカギになるのではないかと考えている。

「今後世界での競争に打ち勝つために、今当社の従業員にとって大事なことは、原点に立ち返ること。グローバルでますます成長していくためには、社会課題に対して『自分が主体的に活動して社会を改革してやろう!』という気概がある人材が必要です。そのような人材が何人育つかによって、伸びしろが決まってくるのではないでしょうか」

現在はコロナ禍で難しいが、今後渡航が可能になれば、海外からも多くの従業員をこの地に呼び、ともに未来の在り方を議論していく予定だ。また、2022年中に展示内容をオンラインで見学することができるバーチャル展示も公開する。日立市と日立の歴史のグローバルな情報発信に力を入れていく。

創業の精神「和・誠・開拓者精神」に基づき、ビジネスを通して社会課題の解決に努めてきた日立製作所。その歩みを学びながら社会課題を自分ごと化して考えることのできる「日立オリジンパーク」は、「環境のまち日立」実現のカギを握っているのかもしれない。

文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 写真提供=日立製作所

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